BLack†NOBLE
『今すぐナポリに引き返せ』
ソファーには座らなかった。蔵人は、顔を少し傾ける。黒髪がサラリと揺れた。
『俺をフィレンツェに戻せ』
話し合って理解してくれる相手ではない。それは承知の上。
蔵人に頼むしか方法はないのだから、俺は何度も訴えるしかない。
彼女に会いたい。無事を確かめたい。マフィアとは、関わりたくない。
蔵人は、俺から目を反らし真横の壁にかかる一枚の絵を見つめる。
横目で、その絵を確認する。フィレンツェの街並みが描かれた絵画だ。どこかで見たことがある風景だ。
特徴的なオレンジ色の建物と大聖堂が、フィレンツェのシンボル。
蔵人は無表情にその絵画を見つめている。
『聞いてるのか? フィレンツェに戻る。お前と関わったせいで最悪な目に遭っている。
フィレンツェの屋敷が安全だとは限らないだろ。相手は白昼に銃を放ってくるような相手だろ?
茉莉果の身に何かあったらどうやって責任とるつもりだっ!!
ローザの身の安全を確保する前に彼女が先だろ!!』