BLack†NOBLE
「お兄様がそう言ったの? 完成を楽しみにしててくれたわ!」
ソファーから立ち上がり、彼女を見下ろした。
「お嬢様、世間知らずの無知な貴女に教えて差し上げましょう。
俺の兄は、マフィアだ。マフィアは他人との約束など守らない。殺されなかっただけ感謝して、帰り仕度を済ませてはくれませんか?」
「柏原……酷いわ。お兄様は悪い人じゃないわよ」
何も知らないくせに……
「夕食はお済みですか?」
「いえ、まだよ」
「用意させましょう。何か食べたいものはありますか?」
脱ぎ捨てた衣類を拾い、皮靴を履きながら投げやりに訪ねた。
「柏原と一緒なら何でもいいわ」
胸が締め付けられて破裂してしまいそうだ。彼女を傷つけるのが、こんなにも辛い。
「貴女は、本当にいつまでも我が儘ばかりですね。自分のことしか考えられないか?」
「わがまま? 違うわ、私は柏原と……」
「我が儘でしょう? 正直、二日ぶりに貴女の身勝手に付き合わないといけないのかと思うとうんざりだ。
その点、イタリアの女は大人で陽気でいい。貴女にとってイタリアでの最後の食事です。二度とこの地に来ることはないでしょう。存分に楽しまれてくださいね」
俺は扉に手をかけると、鋭く冷たい瞳で彼女を見つめた。溢れだしてしまいそうな愛情をひた隠す。
下手をすると彼女は簡単に見抜いてくる。
彼女のことを誰よりも知っているように、俺のことを誰より理解しているのは彼女だからだ。
この国で、俺はまた失う……