BLack†NOBLE
俺だって無計画にこんなことをしているわけじゃない。コッグたちに俺がミラノ入りしたことを感づかせたいだけだ。
メルフィスのヘリくらい見分けられるはずだ。
呑気に正面玄関から出て存在をアピールしてやる。
カラビニエリが動いてる今、狙撃は足がつきやすい。本当に俺にとっては好都合だ。
執務室の脇にこしらえてある応接室。ここも近代的で、シンプルかつ清楚にまとめてある。黒とオフホワイトのタイルの床、ベージュの皮のソファー。
白い陶器のカップになみなみと注がれたエスプレッソ。ミラノの伝統的な焼き菓子、パネットーネが綺麗にカットされて運ばれてきた。
客人の喜ばせ方を知っている。
『パネットーネの酵母は流通を拒んでいて、国外で口にすることは滅多にない』
『我が社が厳重に管理しております。パネットーネ独自の味わいは、このミラノでしか味わえない』
『まるで、ビジネスマンだな』
金色のフォークで綺麗にカットされているパネットーネをさして口に入れた。
アンドレは、対面で渋い顔をしたままだ。年齢は三十代前半だろうか、セシルよりは年上に見える。
『ただのビジネスマンですよ。家族もそう信じています。
クロード様は、我々一人ずつに相応しい仕事を与えてくださる。ビジネスの得意な者、カジノ経営が得意な者、揉め事の解決が得意な者、あの方はそれを見極めるのが上手い』