BLack†NOBLE
「紫音 茉莉果……可愛い女だ。強い精神力に、あの美貌。さすが瑠威の選んだ女」
蔵人は、革靴で木の床を鳴らしながら何かをパラパラと捲っている。
「カナダに行って……クリスマスはフィンランドか。意外とロマンチストだな? 彼女喜んだだろう?」
俺達のパスポート。
その小さな冊子には、入出国の際にスタンプが捺される。一目で渡航歴がバレてしまう。
彼女との想い出を汚され馬鹿にされた気分で腹がたつ。
蔵人は、相手を逆上させるのがうまい奴だ。冷静さ奪って苦しめる。本当に最低な男だ。
パスポートは、フィレンツェに到着した時に、外資系ホテルのクロークに荷物と一緒に預けておいた。
万が一に備えて、多目のチップで俺か彼女以外の人間には絶対に渡さぬように念を押しておいたのに……
この国では、苛立つ程に物事がうまくいかない。
蔵人は、鼻唄混じりにパスポートを部下に手渡す。
『二冊とも金庫に入れておけ、俺が許可を出すまで絶対に出すなよ』
『はいボス』