BLack†NOBLE
茉莉果は、なんの迷いもなくフォカッチャに甘いハチミツを浸す。
アリシアは、目の敵とばかりに彼女を物凄い形相で睨みつけるとブツブツと悪態をついていた。
「今日の午後の便で、日本に発つことにした。本当にいいんだな?」
「ああ、早く帰れ」
レイジが用意してくれたエスプレッソに彼女がイヤイヤと首を振る。
「本心か? 彼女と別れて、俺にとどまって欲しいと何度も言ってたじゃないか」
「別れなかった瑠威は要らない。弱味がある奴は邪魔なだけだから……残念だ」
「蔵人って矛盾ばかりだな? 何を考えているのか、さっぱり分からない」
「人間は、矛盾の狭間で苦悩しながら生きていく定めだ。考えを簡単に読まれるようなら終わりだ。
終わりとはマフィアの世界では"死"を示す」
蔵人は、アンティチョークのピクルスをナイフで切り分け口に運ぶ。
「わぁ~珍しい野菜ね? 食べてみよう」とアンティチョークの赤紫の葉をフォークに刺し食した彼女だが、すぐに微妙な顔をしてフォカッチャをハチミツに浸してかじった。