BLack†NOBLE

 くすぐったそうにキスを受け入れた彼女を見て嬉しくなる。

 一人でここに来たなら、きっと泣き崩れていた。彼女がいるから、強くいられる。


 二階の寝室を通り、螺旋階段で三階に上がる。ティールームがあり、そこから外に出るとリアルなあの風景が広がっている。



「うわぁー! 絵と同じ景色ね!」


 丘陵地の緑、その先に広がるオレンジ色の屋根。十三世紀から十六世紀にかけて造られた歴史的価値の高い街。


 木々を揺らして爽やかな風が吹く。



 この場所に彼女といられるなんて、夢みたいだ。





「茉莉果」



「なに?」



 くるりと振り向いた彼女の左手をそっと優しく包む。



「渡しそびれていたものが……」


 懐に忍ばせていた婚約指輪を、薬指に通す。サイズはぴったりだ。俺が彼女のサイズを間違えるなんてあり得ない。



「柏原……」



 彼女を前に片膝をついて、深く頭を下げる。



「頼みがある……」


「どんなこと?」



「もし、貴女がこれからもずっと俺と生きてくれるなら、いつかこの家に戻ってきたい。俺の我が儘だけど……」




 
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