BLack†NOBLE

 
 芸術の都フィレンツェを一望しながら、俺は彼女を強く抱き締める。


「誤魔化し方だけど、キスしか思いつかない。キスでいいか?」


「そんなこと聞かないでよ……」


 声にならない程の小さな囁き。ピンク色の可愛い唇。赤らめた頬の涙を拭うと、誓いを込めてキスをする。


 
 礼拝堂の鐘の音が微かに聞こえた。



 家族になれるんだ。愛しい彼女と、蔵人という兄、それにアリシアもいる。


 ここで、俺はもう失いたくはない。


 もっともっと、自分の持てる全ての力を注いで守る。



「ずっとこうしていたい……」


「帰るのやめる?」


「いや……次からは、ここに帰ってくると思いたい。俺の家はここなんだ」


「柏原、ほんと嬉しそう! 私もすごい嬉しい」


 風でなびく柔らかい髪を耳にかけてやる。白く綺麗な肌に指を這わす。

 そっと目を閉じた彼女に、もう一度キスをした。




 
 
< 423 / 509 >

この作品をシェア

pagetop