BLack†NOBLE

『アリシア~何? この甘い香り』


 私が、まだナイトクラブのダンサーだった頃のお話。 小さなアパートで、同じくダンサー仲間の女の子たちとルームシェアをしていた。


『チョコレートを溶かしてるの! クロードにあげるんだからっ』


 湯煎にボールを浮かべて、キスチョコをバラバラと投げ入れる。


『まだオーナーのこと諦めてないの? 私たちなんて全然相手にされてないわよ。先月パリコレに出たトップモデルだって玩具みたいに弄ばれて結局捨てられてたわ。この前なんて大物女優二人と肩組んでホテルに消えてったわよ』


『うるさいっ! うるさいっ! その女が魅力なかったから、捨てられたのよ!』


 モデルだって女優だって、彼にかかれば、ただの玩具だ。 彼の興味が失せれば捨てられる。そんなのわかってる。


 私は、ただ彼の経営するナイトクラブの客を喜ばせるだけのダンサーだ。相手にされないことくらいわかってる。


 それでも諦めるられない。


『アリシア女優になりたいんでしょう? 悪いこと言わないから、オーナーにうつつ抜かしてないで演技の勉強したほうがいいよ』


『わかってる! 私は両方手に入れるの!』


 友達は鼻で笑い、それ以上のアドバイスはくれなかった。

『アリシアなら、男に不自由しないでしょ~』なんて茶化して、彼女は自分の部屋に入った。



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