BLack†NOBLE


 キッチンで、レモンを輪切りしながらケトルでお湯を沸かす。



 蔵人は、今なにをしているのだろう――


 アリシアを苦しめて楽しんでいるのだろうか?

 レイジや、カルロたちと危険な話をしているのだろうか?


 まさか、また誰かに命を狙われてはいないだろうか?

 
 誰かが悲しい思いをしていないだろうか?

 
 あれ程までに俺に執着しておいて、帰国してから一度も連絡がない兄を想うと、いつだって腹が立つ。

 
 別に……俺も蔵人に話す様な事もないが、せめて声くらいは聞かせてくれればいいのにな……本当に、自分勝手な男だ。



「柏原? あら、またその傷気にしてるの?」


 クリーム色のナイトウェア姿の彼女がやってきたことに気がつかなかった。 栗色の髪から、ポタリポタリと雫が落ちている。

 それを気にせずに、バスタイム中はリングピローに置いている婚約指輪を持ってきて、するりと自分の左手薬指にはめていた。


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