BLack†NOBLE


 若い男は、アリシアの胸に貪りついた。

『やだ! 気持ち悪い! やめて!』

 相手が有名女優だと尻込みしているのか、激しい抵抗を受けてバツの悪そうな顔をしてから、手を止める。


 こんなの、男にしてみればラッキーでも何でもない。

 訳もわからず連れてこられて、国際映画祭のレッドカーペットを踏んだ女優を犯せと言われたら大抵の奴が怯むだろう。


『クロードやめさせてよ! こんなの酷いよ……』

 アリシアが男の腕から抜け出す。





バァアアン!!!!




 至近距離で、鼓膜が破れるくらいの爆発音に、さすがに背筋が凍り付く。



 撃ちやがった……
 蔵人の奴……




 弾丸は、男を反れてホールに向かって飛んだ。威嚇射撃だろう……わざと外したんだ。


 ガラスには放状線の跡をつくり弾が突き刺さっている。


 薬莢の臭いと、焦げた臭いが混ざり小さな煙が上がる。


 カシャンと弾を装填し直す冷静な蔵人。



『手を止めるな……と言っただろ? 次は頭蓋骨を狙うぞ。アリシアも大人しく相手してろ』


 それは怒りなのか、悲しみなのか、蔵人は複雑な表情をしていた。


 こんな狭い室内で銃を撃つなど、頭がおかしい奴の行動としか思えない。

 映画や漫画の世界ならば、主人公がカッコ良く悪人を打ち負かすシーンがあるのかもしれないが、まず跳ね返りを心配すべきだ。

 明確な的がなければ、弾はどこに飛んでいくかわからない。

 飛び火からの火災の危険だってある。しかも奴は、煙草を口にくわえたままだ。


 こんなの、自殺行為に近い。





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