BLack†NOBLE
『すぐにバレて、頑張ってみたんだけどね?』
ルージュの甘い香りが、車内に漂う。
『フォカッチャにハチミツを浸して食べる女とは、生活できない。って言われて、喧嘩しちゃったの』
アリシアの声が震えた。泣いているのか?
『ハチミツは、美容と健康にいいのよ! だから私もつい意地を張っちゃって、クロードなんか大嫌い! って言ったの。本当は大好きなのに、大嫌いて言ったの』
『この路地は、右か?』
『ちょっと! 私の切ないラブストーリーに水ささないでよっ! 左よ!』
蔵人の結婚の謎は、大体解けた。
奴もこんな女に付きまとわれて多少なりと、苦労を強いられていたわけだ。
いい気味だ。
左にハンドルをきる。後続車はいない。
人気がなく、入り組んだ道の中に屋敷を構える。
そんなマフィアの習わしがあるという話をどこかで聞いたことがある。
誰に聞いたのかは、忘れてしまった。