解ける螺旋
少しの間の後、奈月が小さく笑った。
それじゃあ、と少し弾んだ声が耳元でした。


「愁夜さんが私を幸せにして下さい」

「……」


言ってる意味をどう取ろうかと一瞬考えた。


本当は十分わかってる。
だけどこの未来の世界で、俺はいつも奈月にやり込められてるだけの様な気がして、
あっさり頷くには、男として若干の抵抗があった。


多分こんな引っ掛かりを結城はずっと持ち続けたんだと思うと、俺は結城とわかり合いたい様な気分にもなった。


「……困ったな。
俺は幸せになる君を見守りたいだけで、俺の手で幸せにするとは言ってないんだけど」


とりあえず余裕をかましてニッコリ笑ってみる。
こういう切り返しは予想していなかったのか、奈月はちょっとだけ唇を尖らせた。


「空気読んで下さい。
……私が幸せになる姿を見てるなら、愁夜さんが幸せにしてくれるのと結果は同じじゃないですか」

「だけどそれじゃあ、俺は結城の幸せを見守る事が出来ない気がするし」

「なんでですか」

「結城は俺が君を幸せにする事を、心から喜んでくれるとは思えないし」


奈月の顔が悔しそうに頬を赤くして歪んだ。
ここに来て初めて、勝った、と思った。


この程度の事で何に勝ったんだ、と自分の小ささが情けない様な気もするけど。
これがこの世界の俺のキャラなんだと割り切れば、何とかやっていけない事もない。


「……健太郎は私の幸せを願ってくれてるんですっ!
愁夜さんが戻って来て、これまでの健太郎の選択が報われた事も確信して、これからは真美さんと幸せになるんだから。
……だから健太郎の幸せの為に、私も幸せにならないといけないの!
その為に……愁夜さんにお願いしてるのに」


――いや、決め付けちゃマズいだろ。


最後の方はブツブツと、いじける様に声を小さくした奈月に、俺はつい苦笑した。
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