解ける螺旋
カコンと、鹿威しの風流な音が聞こえる。
直接の明かりのない美しい庭は、ちょっと幻想的に浮かび上がって見えて。


「……?」


不意に視界を過ぎった影に、私は一瞬目を疑った。
思わず目を擦って確かめようとして、お化粧を気にしてなんとか堪えた。
その代わり、一生懸命目を凝らして影を確認する。


「……樫本先生!?」


池の反対側。
あまりパーティー会場の灯りが届かない位置に、昼間会ったばかりの樫本先生の姿を見た。


パーティーの事を知っていたみたいだったけど、自分が来るなんて一言も言ってなかったのに。
だけどどういう縁で招待されたのかは想像も付かない。


「先生っ! 樫本先生~!」


闇に隠れてしまいそうな先生に聞こえる様に、私は必死に声を掛けた。
これだけ声を張れば、聞こえない訳がないと思ったのに。


その証拠に先生は確かに顔を上げて、私の方に目を向けたのに。
まるで眼中にない様に、ふいっと目を背けて、先生は歩いて行ってしまう。


「あ、あれ? 無視……?」


軽くショックだった。
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