解ける螺旋
今日の今日出逢ったばかりとは言え、会話もしたし顔を覚えられていないとは思えないのに。
名前を呼んだらこっちを見てくれたのに、無視して歩いて行っちゃうなんて。


目が悪くて私だってわかんなかったかな。
気付かなかったのかな。


それにすごく耳も遠いとか。
そんな理由をつけながらも、なんとなく寂しい気分になって、溜め息をついた。


そうしているうちに結構空気も冷たくなって来た。
肌の露出が多いパーティードレスでは、さすがに寒い。
私は諦めて会場に戻る事にした。


本気で捜してた訳じゃないけど、西谷さんのお兄さんも見つからなかった。
気付かなかったか入れ違ったかで、会場の健太郎と西谷さんのところにもう戻ってるかもしれない。


私の予想は大当たりだった。


薬の開発に協力して招待されたとは言え、西谷さんは病人だって事に変わりはないんだから。
最初からそんなに長居出来る予定じゃなかったらしい。


ほんの短い時間を健太郎と過ごした後、西谷さんの方から帰ると言って、お兄さんに電話してパーティーを後にしたと聞いた。
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