解ける螺旋
健太郎も結局見送ることも出来ず、お兄さんの姿も見る事はなかったみたいだった。
結局いつもと同じ様に健太郎にエスコートされて、一度放した腕に手を掛けた。
そのポジションに着いて、やっぱり落ち着くな、なんて考えたのは一応内緒。
一緒に歩き出した私に、健太郎が尋ねて来る。


「……何も変わった事、なかった?」

「べ、別に、何も」


樫本先生を庭で見つけて、声を掛けたのに無視された事をなんとなく言えず。
変な顔をした健太郎を見て、少し口を噤んだ。
そして、ちょっとだけ、もしかして、と思った考えを、健太郎の袖をひっぱりながら尋ねてみた。


「何」

「あのさ。
……今の私って、私だってわからない位すごく綺麗だったりする?」

「……は?」


健太郎はポカンと口を開けて、そして奇妙なものでも見るような目付きに変わった。
それを見て、私も溜め息をつく。


「……ごめんなさい。
わかった。返事しなくていい」


聞いたらいくら私でも本気で凹みそうだったから、自分で聞いておいて結局質問を撤回した。
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