主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
「じゃあ私…ちょっと用事があるのでもう行きます。父様、危ないことはしないで下さいね」


「ふふ、まるで私が息吹の子のような口ぶりだな。わかったよ、行っておいで」


ふんわりと微笑んで息吹が居なくなり、晴明は障子に貼られた何枚かの札を見て、にやりと笑った。


「私は札に触れることはできぬが…私でなければよいだけのこと。さて、罠にかかるのは誰かな?」


主さまいじめができない憂さ晴らしをするために、晴明は罠を仕掛けて待ち受ける。


――晴明が元気になってほっとして、途中刺さるような視線を感じながらもそれを無視し、砂利玉が敷かれた庭に下りて、見張りを立てられて厳重に警護されている宝庫の前に立つ20代前半位の近衛兵に話しかけた。


「帝より許可を頂いて見学に参りました。何も持っておりません」


訝しがる近衛兵に身体を触らせて顔を真っ赤にさせると、宝庫の鍵を開けて中へと入れてくれた。


「すごい…」


見張りも一緒に入ってきたが、棚に所狭しと置かれる大小様々な箱にはそれに何が入ってあるかが紙に書かれて貼られており、注意深くひとつひとつを見て回り、金銀や計り知れない価値の像を素通りして、


そして見つけた。


『葛の葉狐 毛皮』


――生きたまま皮を剥がされたという晴明の母。


今まで深くそのことを聞いたことはなかったが、難しい術を使ってまでも一条朝を打ち倒そうと固執する晴明が、母狐を愛していた証。


「…こんな暗い所に……母様、お迎えに来ました」


封印が施されてある大きな箱に触れて囁くと目下の目標を視野に入れた息吹は颯爽と宝庫を出て伴も連れず、姿を晒して内裏に向かう息吹に僻みの声が飛んだ。


「あのように姿も隠さず…よほど己の容姿に自信があるようだのう」


…好きなように言えばいい。


晴明を解放し、晴明の母を取り戻せば、自分の願いは成就するのだ。


そのためには、どんなこともしてみせる。


「戻りました」


帝の私室の前に座って頭を下げるとすぐに襖が開き、手を引かれて中へと入った。


「お願いが…ございます」


交換条件はわかっている。

…耐えてみせる。
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