主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
後宮に騒ぎ声が届き、帝は身体を丸めた息吹の前で歯噛みしながら障子を開けた。


「何事だ!」


「空を!ご覧下さい!」


――稲光が何度も御所を照らし出し、近衛兵たちは皆空を見上げ、自分に向けて突き刺さるような殺気を放っている者に悠々と声をかけた。


「十六夜、また来たか。何度ここへ来ても結界は破れぬ」


「…たかが人間の分際で俺の名を何度も呼ぶな」


こんなに離れているのにまるで耳元で囁かれているかのように、近い。


それに…主さまの容姿がいつもと違った。


「鬼め…!」


「古来より我々はお前たち人間よりも遥か昔から存在していた。言わばお前たちを統べているのは、この俺だ」


両の額に小さな角――

瞳は金色に輝き、その手には禍禍しい妖気を発している刀が。


「そ、れは…」


「こいつはどんなものでも紙の如く切ってしまう。この結界もな」


――主さまの背後には百鬼以上の妖。

主さまを守るように配置し、どの妖も絵図で見たことのある大物。


絶えず雷が近くに落ちて、轟音に耳を塞ぎながらも息吹の悲鳴のような声が聴こえた。


「主さま…っ!」


「息吹姫はそこに居なさい!」


一瞬目を逸らしてまた戻した時――

主さまが刀を振りかぶり、結界を一刀両断した。


かっと空が明るくなり、蜘蛛の糸のように結界はほつれて垂れ下がり、霧散した。


「暴れるぞー!」


「主さまは早く息吹を!」


数えきれないほどの数の百鬼がなだれ込み、御所はあっという間に阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。


“人を殺さず”の禁が解かれ、百鬼たちはわざと人から襲われ、正当防衛だと言わんばかりに人に襲い掛かる。


――主さまはまっすぐ帝を目指してふわりと降り立ち、血を吸いたがる天叢雲に呼び掛けた。


「最期の一滴まで吸ってもいいぞ」


『不味そうだな』


「私はやられたりなど…」


焦った声を上げて刀を構えた帝は、目を逸らしていないはずなのに忽然と姿を消した主さまに動揺して辺りを見回した。


「どこに…!?」


「ここに」


「!?」


身体に、異物感――
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