主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
晴明には“父様”と言って慕うことはできるが、主さまには何故かそれができない。
今も激しく奪われた唇の感触が生々しく残っていて、起き上がって浴衣をちゃんと着て帯を締めると、床から這い出て主さまの寝室に通じる襖を少しだけ開けて盗み見た。
…寝ている。
髪紐を解き、横向きになってすうすうと寝ている主さまの浴衣の胸元が少し乱れていて、そこから視線が外せなくなってしまった息吹は慌てて視線を剥いで襖を閉めて、布団に包まった。
“味見だ”と言った。
だったら今まで2度された口づけも、味見ということになる。
だったら、そんなに気にしなくてもいいことなのかもしれない。
――割り切ると気持ちがすっきりして、その後息吹はぐっすり寝たのだが…
大変だったのは、主さまだった。
「お、俺は…息吹に…」
衝動的にしてしまった口づけ――
どうしようもなく愛しくなって、“味見だ”と嘘をついて肩を齧ったりして…
歯型のくっきりついた息吹の細い肩は艶めかしく、そこからはなし崩しに口づけをしてしまって。理性を総動員させてようやく床についたというのに。
…全然眠れない。
「くそ…っ」
悶々として、身体がずきずきと疼いて、結局主さまは一睡もできないまま朝を迎えた。
そして意地悪気な声が庭から聴こえてむくりと身体を起こした。
「十六夜、起きているか?…ああすまぬ、眠れるわけがなかったな」
「…いちいち嫌味を言うな。片はついたのか?」
縁側に通じる障子を開けて外へ出ると、きちんと束帯を着て、先程御所で見せた鬼気迫る晴明とは違い、飄々としていて縁側に座り、欠伸をした。
「昨晩はすまなかったな、おかげで母上の弔いも済んで、今頃御所は恐慌状態に陥っているだろう」
「帝にはまだ子が無かったな。世継が望めぬならば残された道は出家か」
「後のことは知らぬ。…で?息吹に何もせず大人しく1人で寝たのだろうな?」
黙り込んだ主さまに対して片眉を上げて、顔を覗き込んだ。
「おや?唇に紅が…」
「!」
唇を拭った主さまに、晴明がにやりと笑った。
「嘘だ」
今も激しく奪われた唇の感触が生々しく残っていて、起き上がって浴衣をちゃんと着て帯を締めると、床から這い出て主さまの寝室に通じる襖を少しだけ開けて盗み見た。
…寝ている。
髪紐を解き、横向きになってすうすうと寝ている主さまの浴衣の胸元が少し乱れていて、そこから視線が外せなくなってしまった息吹は慌てて視線を剥いで襖を閉めて、布団に包まった。
“味見だ”と言った。
だったら今まで2度された口づけも、味見ということになる。
だったら、そんなに気にしなくてもいいことなのかもしれない。
――割り切ると気持ちがすっきりして、その後息吹はぐっすり寝たのだが…
大変だったのは、主さまだった。
「お、俺は…息吹に…」
衝動的にしてしまった口づけ――
どうしようもなく愛しくなって、“味見だ”と嘘をついて肩を齧ったりして…
歯型のくっきりついた息吹の細い肩は艶めかしく、そこからはなし崩しに口づけをしてしまって。理性を総動員させてようやく床についたというのに。
…全然眠れない。
「くそ…っ」
悶々として、身体がずきずきと疼いて、結局主さまは一睡もできないまま朝を迎えた。
そして意地悪気な声が庭から聴こえてむくりと身体を起こした。
「十六夜、起きているか?…ああすまぬ、眠れるわけがなかったな」
「…いちいち嫌味を言うな。片はついたのか?」
縁側に通じる障子を開けて外へ出ると、きちんと束帯を着て、先程御所で見せた鬼気迫る晴明とは違い、飄々としていて縁側に座り、欠伸をした。
「昨晩はすまなかったな、おかげで母上の弔いも済んで、今頃御所は恐慌状態に陥っているだろう」
「帝にはまだ子が無かったな。世継が望めぬならば残された道は出家か」
「後のことは知らぬ。…で?息吹に何もせず大人しく1人で寝たのだろうな?」
黙り込んだ主さまに対して片眉を上げて、顔を覗き込んだ。
「おや?唇に紅が…」
「!」
唇を拭った主さまに、晴明がにやりと笑った。
「嘘だ」