主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
まんまと晴明の罠に引っかかった主さまは、手の甲で唇を拭いながら睨んだ。


「やはり何かしたな?ああ困った、嫁入り前の娘に手を出されるとは…」


「…あれは俺が食う。元々そういうつもりであれを拾って育てたと言ったろうが」


「はて、食うつもりはもうない、とも言っていたような気がするが。妖に食われるために手元で育てたのではないぞ、今すぐ連れて帰ろう」


腰を上げた晴明に慌てた主さまが晴明の腕を引っ張って強制的にまた座らせると小さな声で呟いた。


「…相変らず性格が悪いな」


「色々協力してもらった恩は感じているぞ。いつもの半分程度しか本領を発揮できていないが…ん?顔色が悪いな?」


そっぽを向いて煙管を取り出した時、広間の襖が開いて息吹がひょっこり顔を出して、嬉しそうに笑った。


「父様!」


「ああ息吹…そなたが無事で本当に良かった。こっちにおいで」


息吹が俯きながら少し遠回りをして晴明の隣に座ると、手を握ってにこーっと笑っていることに嫉妬をした主さまはますます不機嫌になって、

無口になった。


「父様、母様の弔いはどうなりましたか?」


「屋敷の裏庭で安らかに眠っているよ。ここへ来たのはそなたを迎えに来たのだが、帰るかい?」


――頭を撫でてくれて優しく笑った晴明に従いたかったが、主さまとも離れがたい。

なので、曖昧に頷きながら晴明の膝に上り込んで見つめ合うと小首を傾げた。


「私も弔いたいけど…」


「ああ、まだここに居たいかい?気が済むまで居るといい。その間私も羽を広げて色々楽しむとしよう」


「父様の好きな方に私もお会いしたいです。いつかお会いさせてくださいね」


「ん?………ああそうだねえ、気が向いたらね」


息吹が勘違いしていることを知りながらも否定しなかったのはもちろん、主さまいじめをするため。

息吹が自分を気遣っているのを見せつけるためにわざとそう言って息吹をべたべた触り、

ぎろりと睨まれるとふっと鼻で笑いながら膝から降ろして牛車を指した。


「もう行くかい?」


「はい。着替えてきますっ」


「………俺も行く」


その言葉を待っていた。
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