主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
主さまの敵は何も晴明だけではない。


…雪男だ。


息吹の傍にべったり張り付いて始終離れない雪男と息吹が時々見つめ合い、顔を赤くしてぱっと逸らすところを何度も目撃した。


今も部屋の隅で壁に背を預けて膝を抱えながら座っているのだが…良い雰囲気な気がする。


これは問い質さなければと思った主さまが声をかけようとした時――


「十六夜、今夜の工程の話をしよう」


いつの間に部屋に入ってきたのかぬらりひょんが腰が痛いのか手で叩きながら現れ、庭でじゃれる八咫烏の嘴を撫でていた晴明が中へと入ってきた。


「そうだな、そろそろ話をしよう。まず息吹の体力面を考えて…」


「息吹、難しい話になりそうだから外に出ようぜ」


「うん」


…さりげなく手を差し出し、さりげなく息吹がその手を握る。


主さまはすでにいらいらの頂点に来ていたのだが、ぐっと堪えて続々と現れる大物の妖たちを部屋に引き入れた。


「…手は出すなよ」


「そっちこそ」


すれ違いざま主さまがそう警告すると相変わらず反抗的な態度が返ってきたが、その会話が聴こえていない息吹が小さく手を振って来ると、ぎこちなく小さく手を振り返した。


「父様が私の体調が…って言ってたけど私は大丈夫だよ?」


「駄目だお前は女なんだから。お前に何かあったら主さまに怒られるのは俺たちなんだからな」


手を引っ張って出入り口へ向かいながら言うと…息吹が少し嬉しそうにしてはにかんだ。


また雪男も主さまと息吹の関係性が変わったことには気付いていたが、怖くて口に出せない。


自分の告白を息吹はどう捉えているのだろうか?


息吹を妻にして、息吹が死んだ後は自分もただの雪に戻って一緒に転生したい…と思う気持ちに変わりはない。


だからこそ雪男は底まで見える小川の前で息吹を座らせると隣に腰を下ろし、そっと息吹の肩を抱いた。


「な、なに?」


「俺の母さんに会ってほしいんだけど」


「え?雪ちゃんのお母さん…どこに居るの?」


「遠くに居る。でも呼べば会いに来てくれるから、会ってほしい。意味…わかるか?」


大切な人を、会わせたい。
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