主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
雪男と手を繋いで帰ってきた息吹の様子が明らかに照れていて、主さまの機嫌はさらに一気に悪くなった。


「晴明、あれはどういうことだ」


「さて、私にはわからぬなあ。それよりも自分で聴いてみたらどうだ」


「それができないからお前に聴いてるんだろうが」


「小心者め」


まだ疲れが取れていないのか、息吹が床の敷いてある部屋に移動しようとしたので少し慌てた主さまはようやく息吹に声をかけた。


「息吹、ちょっとこっちに来い」


仕方なく主さまを援護してやろうと考えた晴明は雪男の肩を抱き、隅に座らせるとおどおどと怯えた瞳をされて、にやり。


「どうした、目が泳いでいるぞ」


「どうせ俺をからかおうとしてるんだろ?」


「隠していたつもりだがよくわかったな」


そして主さまは主さまで、息吹を隣に座らせたものの話を切り出すことができずに息吹を横目で盗み見していた。


「何か用事?今からお昼寝しようと思ってたんだけど」


「…雪男と何の話をしていた?」


「雪ちゃん?幽玄町にお母さんを呼ぶって言ってたよ」


「雪女を?どうしてだ」


「雪ちゃんに直接聴いたら?」


…父娘揃って同じことを言われた主さまはまたもや不機嫌になり、ごろんと寝転がるとふてくされた。



「俺に隠し事をするな」


「だから今話したでしょ?ねえ主さま、雪ちゃんのお母さんって綺麗なんでしょ?お会いするの楽しみなのっ」


「ものすごい美女だ」


「そいういえば雪女は一時期主さまの嫁候補でもあったなあ」



まさかの衝撃発言に息吹が飛び上がりそうなほどに驚くと雪男をからかいまくっていた晴明を振り返った。


「えっ?」


「美女だし大物の妖だし、そなたも悪くは思ってもいなかっただろう?」


「…あいつは俺の妹のようなものだ。それに触ると凍ってしまう」


鼻を鳴らしていっそう無愛想になった主さまの変化に気付いた息吹も同じように不機嫌になり、晴明を笑わせる。


「ほう?ではそなたも会うのが楽しみだろう?」


「…」


…全員無口になってしまった。
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