主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
結果、息吹は晴明が乗ってきた牛車に乗り込み、中には晴明と2人きりで幽玄町に着くまで終始晴明の腕にひっついていた。


「息吹、父様には全てお見通しなんだよ。雪女と主さまの関係を疑っているのだろう?」


「…だって…父様が言ったことじゃないですか。雪ちゃんのお母さんが主さまのお嫁さん候補だったって…」


「過去形ではないか。いいか息吹、雪男も雪女も1度愛した者はその命果てるまで生涯愛するのだ。だから雪女がたとえ以前主さまのことを好いていたとしても今は違う。そなたが案じているようなことにはならぬ」


「…本当ですか?」


「本当だとも。今まで私が嘘をついたことがあるかい?」


「いいえ…。父様…私…頑張ってもいいのかな」


――一瞬晴明が目を見張り、恥ずかしくなった息吹は何度も晴明の腕を引っ張り回しながら背中に隠れた。


「主さまのことを、ということかい?」


「…でも私…人だし…。私なんかすぐに歳を取ってしわくちゃになっちゃうだろうけど…でも傍に居たいの」


「ほほう…。息吹、父様はいつも息吹の味方だよ。では父様も色々協力させてもらおう」


「ほんと?でも父様、自分でできることは自分でします。父様大好き!」


愛娘に“大好き”と言われ、決して主さまたちの前では見せないほどに頬が緩み、息吹を腹に乗せてごろんと寝転がった。


「その代わりと言ってはなんだが、息吹には父様の恋の応援をしてもらおうかな。山姫は手強くてねえ」


「!やっぱり母様が好きなの!?父様!絶対応援します!わあ、父様と母様が本当の夫婦に…」


「ふふふ、私のことなど青二才としか思ってない愛い奴だがここはひとつ私も一人前の男であることを証明してやろう」


――主さまのすぐ後ろを大鬼に引かれて走っている牛車の中からはきゃっきゃと楽しい声が聴こえる。


誤解が解けずにいらいらしっぱなしの主さまは子供のようで、ぬらりひょんや鵺らがひそりと忍び笑いを漏らしていた。


「…笑うな」


「そなたは儂らの主なのだから堂々としておれ。しかし気まぐれに拾った娘がよもや神の血の者だとはのう」


息吹には何かの力があるのかそうでないのか。

そこが争点になっていた。
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