主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
しばらくの間息吹に触ってもらえて満足した主さまがむくりと起き上がると、早速櫛を手にした息吹が主さまの長い黒髪を梳きはじめた。


「今日はね、同じ色の髪紐なの。お揃いだよ」


「…他の色にしろ」


「やだ。今日はこれつけてね、外しちゃ駄目だよ」


…お揃いと聞いて本当は嬉しかったのだが、威厳と言うものを気にしがちな主さまは皆がこちらを盗み見ていることに気付いていたので手を振り払おうと肩越しに振り返った。


「!息吹…お前…化粧してるのか?」


「わかった?ちょっとだけ白粉と紅をつけてみたの。どう?」


「し、知るか!」


少しだけ大人びた雰囲気になり、鵜目姫が憑いていた時のように妖艶な感じの息吹にどきっとして私室を出ると、後を追って同じ橙色の髪紐をつけた息吹が出て来た。


膨れっ面の雪男と眉の上がっている晴明、くすくす笑う山姫と雪女に、不機嫌全開の主さまが縁側に腰を下ろすと隣に息吹が座った。


「私でさえもあの部屋には入ったことがないのに…主さまはわかりやすいですね」


「何がだ。氷樹…余計なことは言うなよ」


口止めとも取れる言葉に雪女はふわっと笑っただけだったが、母と主さまがただならぬ関係だったかもしれないという想像に取り憑かれている雪男は茶を口に運びながら主さまを詰った。



「母さんとはどんな関係だったんだよ」


「…はあ?関係とはなんだ。俺と雪女は百鬼と主の関係でしかない。誤解を受けるようなことを言うな」


「でも…」


「氷雨、それまでに。そうね、私は主さまのことを好きだったけれど、主さまは私のことを妹くらいにしか思っていなかったし、それにあなたの父と出会ってあなたが生まれたのだから主さまを責めるのはお門違いよ」



――“私は主さまのことを好きだった”


雪女の告白は息吹と雪男を動揺させ、主さまの機嫌はさらに悪化した。


「過去のことを持ち出すな。息吹、お前も気にするんじゃない」


「…別に…気にしてなんか…」


そう言いつつ主さまの隣から移動すると、のほほんと茶を啜っていた晴明の背中に隠れた。


主さま、内心焦りまくり。
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