主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
「息吹さんは晴明と主さまに育てられたか。不思議な生い立ちですね」


それまでぷんすかだった息吹は優しく話しかけてくれた雪女のやわらかい笑みを見てすっと怒りが消えると、もじもじし始めた。


「えと…私…幽玄橋に捨てられてて…それで…」


「主さまが襁褓を替えたと先程自慢していたけれど、いつまでここに居たのですか?」


「10歳位の時まで…。その後は晴明様に…」


「ふふ、2人の大物の妖に育てられるなんて滅多にないことですよ。大抵人は妖の食べ物ですから」


「私は主さまに食べられるために育てられたから、妖が人を食べることを責めたりしません。…でも結局逃げ出しちゃったけど」


雪女の青い瞳がまん丸になり、渋面顔の主さまを問い質すように見つめると…主さまは肯定も否定もせず、髪紐を揺らしながら庭を見つめていた。


「食べられる…ために?」


「主さまは女の人間を食べるんでしょ?もうずっと食べてないって言ってたからそろそろお腹が空く頃でしょ?だから私もそろそろ…」


「これこれ息吹、私がそうはさせないよ。ここまで美しく立派に育ったのだから、そなたを幸せにしてくれる男と出会い、孫をこの腕に抱くのが私の夢なのだ。主さまに食わせてなるものか」


「でも…」


相変わらず主さまは庭ばかりを見つめていて、息吹が少し疲れたようなため息をつくと雪女は冷たい手で息吹の膝に触れ、顔を上げさせた。


「裏庭を散歩しませんか?久しぶりに歩いてみたいわ」


「あ、はい。じゃあ父様、行って来るね」


「ああ、行っておいで」


息吹と雪女が腰を上げると、主さまが一瞬瞳を上げたが何も言わず、雪女は息吹の手が凍傷にならないように白い手袋をつけると台所側から外へと出た。


「私の息子はあなたによくしているかしら?」


「え、雪ちゃんのこと?うん、小さな頃から主さまに内緒で字を教えてくれたり遊んでくれたり…とっても優しくしてくれます」


ようやく息吹の顔に笑顔が戻り、雪女は息吹と手を繋ぎながら昔よく遊んだ整備の行き届いた山林を歩いた。


「主さまとどちらが優しいかしら?」


…優しさの種類が違う。


息吹が選んだのは――
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