主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
神出鬼没故に、一体どこに居るかわからない――


晴明の“探し物”は銀と同じように一つ所にじっとしている気性ではなく、晴明は朝からずっと天地盤の前に座して頭を悩ませていた。


「十六夜もきっとどこに居るか知らぬだろうし…どうしたものか」


独りごちた時――いきなり背筋がぞわっと泡だったと思ったら全身に鳥肌が立った。


気色ばんで腰を浮かした晴明が素早く印を結んで鋭い眼差しで庭に目を向けると――そこには“探し物”が自ら現れていて、唖然としてしまった。



「俺を捜していたらしいな。何の用だ」


「…潭月(たんげつ)殿…お久しぶりでございます」



片膝をついた晴明が頭を下げると、潭月と呼ばれた男は腰に手をあてて鼻を鳴らした。



「こそこそ嗅ぎ回られるのは好きじゃない。俺の息子は達者にしているか」


「はい。…1年後、あなたが封印を施した娘と夫婦になります。…お会いにならないのですか」



――その男は主さまよりも長い黒髪で、外見はまだ40代前半に見える主さまそっくりの男だった。


…もちろん“息子”とは主さまのことで、濃緑の着物姿の潭月は縁側に腰掛けて夜空に浮かぶ月を見上げながら、笑った。



「会う必要もない。しかしこれは何の縁か。俺が十数年前に偶然出会った娘が腕に抱いていた赤子と俺の息子が夫婦に?運命とは面白くできているものだな」


「やはりあなたが木花咲耶姫を封印したのですね?一体どこで?」


「小さな村で赤子を産み落とした際に、赤子がすぐに喋ったものだから驚いた産婆が村の連中に言いふらしたことがきっかけで村八分にされて追い出されて、路頭に迷っていたのを俺が助けた。単なる暇つぶしよ」


「あの封印の精度は並ではありませんでした。鬼八を封じていたほどの強い力を持った妖と睨んでいましたが…やはりそうでしたね」


「息子に跡を継いでのんびり暮らしていたんだが、あれはいい刺激になったぞ。あれに言っておけ。もっと精進しないと俺がお前の役目を奪うぞ、と」



茶目っ気たっぷりに片目を閉じて見せた潭月は早々に腰を上げて背を向けて、空を上がって行く。


「そろそろ退散しないと気付かれる。今度ゆっくり息子と嫁になる女に会いに来る」


「はい」


目尻に皺を寄せて笑った潭月は、風の如き速さで晴明の屋敷を後にした。
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