絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「……それはいいの?」
「さぁ……」
「ユーリさん的には?」
「なくはない……かなあ。好きならなんでもオッケーよ」
「じゃなくてさあ。普通の子がこの匂いだったら」
「飴まいてきたんちゃうかな……」
「なるほどねー」
 何の役にも立たない情報を今すぐにでも忘れようと、ケースと一緒に元に戻す。
「さあ、お酒、お酒」
「どんなんがいいん?」
「酔いたい。明日休みだからさ。1回べろんべろんに酔ってみたいんですよね」
「はいはい」
 言いながら、酒コーナーを舐めるように見渡す。
「酒ゆーてもいろいろあるからなあ。ビール、ブランデー、カクテル、バーボン、モルト、日本酒、ワイン、泡盛、焼酎、梅酒……」
「ユーリさんが好きなのは?」
「ここ何年かはもっぱら焼酎か梅酒やなあ。芋は最初は飲めんかったんやけど」
「芋……」
「芋焼酎」
「ふーん」
「レアやからね。あんまりないよ。三岳、自然栽培、七夕、黒霧島あたりならあるかなぁ。俺もその辺から飲めるようになったし。今まででだいたい100種類以上は試したな」
「飲んだくれー」
「そういわれたら、返す言葉がない(笑)」
 あまり役に立たない情報を聞きながら、酒の瓶を前に腕を組む。
「うーん……」
「これは? 純黒 無濾過。2500円」
「予算的にはオッケイ」
「予算いくら?」
「一万円」
「結構買えるなあ」
 言いながら、とりあえずその箱をゲット。
「でも、初心者はもっと軽い方がええよ?」
「いや、今夜は酔いたい気分♪」
「軽いんでも酔えるし。後が気分悪ぅなるで」
 アドバイザーに呼んだはずのユーリの意見を全くきかず、次を求めて先に歩き始める。
「明日休みだし、大丈夫!……これは?ドンペリ」
「それシャンパンやん。25000円、全然オーバーやし」
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