絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「今日は焼酎にしようかなぁ」
 呟きながら奴はポケットからタバコを取り出した。
 その土曜の晩は少し眠れた。
 そして日曜、今日こそは仕事に集中しようとどうにか一生懸命前向きに考えていたその時だった。たまたま客につかまり、テレビの商談に入って一度レジに戻ってきたそのとき、携帯が鳴った。
 液晶には知らない番号。だが、局番からして近くだ。
 警察かもしれない。
 何も考えずにその場で出る。
「もしもし」
『もしもし、こちら桜美院第二病院ですが、宮下さんでいらっしゃいますか?』
 病院? 一体、何が……
 女性の知らない声は恐ろしいほど事務的に聞こえた。
「はい、ちょっと待ってください……。悪い、玉越、これ頼む」
「えっ、私!?」
 押し付けて、急ぎ足で携帯を耳につけた。トランシーバーのイヤホンも外す。
「すみません」
『はい。今さきほど香月愛さんがこちらに運び込まれました。命に別状はありません』
「……ほんとう……ですか?」
 疑問に思ったわけではないが、あまりの驚きにそうなってしまい、廊下の入口で壁に手をついてしまう。
『はい。衰弱をしていましたので、今は点滴をしていますが……』
「すぐ行きます」
『桜美院第二病院です。三号棟の202号室です』
「分かりました」
 部屋番号を覚える気もなく、何も考えずに即答した。ただもう、歓喜で胸がいっぱいで、顔を上げることができない。
 すぐにイヤホンをして、
「副店長、どなたでも構いませんので空いている方いますか?」
『はい』
 一番に矢伊豆が返事をする。
 この距離がわずらわしくて、矢伊豆の携帯にかけながら、既に建物の出口へと向かう。
「もしもし、香月が見つかりました。命に別状はないようです。今から病院に行って来ます」
『ほんとですか!?』
「店、お願いします」
 それだけ言うとすぐに切って、車まで走った。
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