優しい手①~戦国:石田三成~【完】
5cmとない距離でただ見つめ続ける謙信が異常に色っぽく、耳元で囁かれた。

…ぞくりとする低い声で。


「誰にも負けないほど愛してあげるよ」


「あ…、あ、謙信さ…」


大きな流れに身を任せてしまえば、楽かもしれない。


この男は、大きすぎる。


三成のことを一番好きなはずなのに、そんなことすらも忘れてしまうほどに、大きい。


「私…私……」


「…そんなに長く待っていられる自信はないんだけれど…桃姫の答えを待っているよ。さあ、お戻り」


やんわりと背を押されて、これから一体何をされるのか、と気が気ではなかった桃の想像は大きく空振りした。


なので、またもやの引き際の良すぎる謙信をつい振り返る。


――当の謙信は子供のようにまん丸になりながら、子供のような顔ですでに瞳を閉じている。


…少し期待してしまっていた自分が恥ずかしく馬鹿みたいで、家鳴りの恐怖など吹き飛んだ桃は、もそもそと膝をつきながら一番端の三成の隣まで移動して、布団に潜り込んだ。


「三成さん…」


「……何だ、怖くなったのか?」


「…うん。三成さん…私…自分がやだ…」


ゆっくりと切れ長の黒瞳が開く。


何を言ってほしいかわからないのに、何か言ってほしいと思う。


もし大人の関係になってしまったら…

“もう戻りたくない”と思ってしまうのではないだろうか?


桃の中で三成と謙信の存在が日を追う毎に大きくなり、動揺させる。


「…俺は慰めるのは苦手だ。…迷いたい時は迷っていいと思う」


「へへ、三成さんってやっぱり優しいね」


――ぎゅっと抱き着くと、ぎゅっと抱きしめてくれた。


そうされるだけで、ものすごく落ち着いた。


謙信の香りもかなり心が落ち着くが、あの男の表情、所作のひとつひとつが目につき、目が離せなくなってしまう。


「ねえ三成さん…手、握って?」


「ん、桃はまだまだ子供だな」


「うん、だからまだ胸もおっきくなるはずだもん」


「む、う、うむ、そうか、俺が揉んで大きくしてやっても…」


「も、やだ!は、早く寝ようよ!」


――ほっとできた。
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