優しい手①~戦国:石田三成~【完】
聞いたことのない声がして思わず桃が謙信の袖を握ると、男がさらに固い声で問うた。


「父上、そちらの女子は…」


「ああ、こちらは桃姫。私が尾張へ行った理由…と言えばわかってもらえるかな?」


男が沈黙し、居心地の悪くなった桃はクロの鼻面に抱き着く。


「景勝、だんまりは駄目だよ、桃姫が怖がるでしょ?君の母となるのだからちゃんと挨拶しなさい」


「け、謙信さん!?母って、母って…私のこと!?」


面喰っていると、目の前に誰かが立つ気配がした。


…謙信と同じ乳香の匂いがして、思わず口を開けてぽかんと見つめていると、どうやら男も絶句しているらしく、ただ見つめられているのがわかる。


「こら、景勝」


「あ、し、失礼…。母上、俺は上杉景勝と申します。以後お見知りおきを…」


「あ、あの、母上とかやめてください!私、そんなんじゃ…」


「まあ立ち話も何だし、中に入ろうよ。みんなお風呂に入ってすっきりして、夕餉を食して話はそれから」


自分のあずかり知らぬところで話が進んでいるような気がして、桃はその名を呼んだ。


「三成さん、どこ…?ここに来て、お願い」


しんと静まり返る。

その中足音が聞こえて、桃の手を取った。


その手を、知っている。


「三成さん…」


「…風呂場までついて行ってやる。倒れぬようゆっくり歩け」


「ありがと、みんな、また後でね!」


――三成と謙信が一度見つめ合ったが、謙信が肩を竦めるとそのまま宿の中へと入って行く。


「父上、母上は…俺より年下に見えますが」


「うん、十七って言ってたかな。君の良い話し相手になると思うよ」


「桃姫は我が奥州の母となるのだ。貴公が景勝殿か。戦場での噂は聞いているぞ」


「…」


「ああごめんね、この子、私に似て口下手なんだ。さあ、中へお入り」


景勝の肩を抱いて中へと入って行く姿を政宗が見送りつつ、呟く。


「誰が口下手だと?」


「政宗様、明日は越後へと共に入られるのですか?その眼帯ではすぐに…」


小十郎の進言にさすがの政宗も唸る。


「これは外さぬ。さてどうしたものか…」
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