優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃と三成が手を繋いで戻って来ても、謙信は何も言わずに景勝と杯を傾けていた。


「遅かったね姫。私たちは男だし、外の井戸水で汗を流してきたよ」


――布で両目を覆っているため、何度もつまづきそうになりながら三成に導かれた場所へ座ると、味噌汁の良い匂いがした。


食道楽の桃は早速お腹を鳴らせて、皆の笑いを誘う。


「お腹すいたー!お魚の匂いがするね!でも…一人で食べれるかな…」


「俺が…」


三成が言いかけた時、射抜くような視線で景勝が串刺しにしてきて、思わず口を閉じた。


「こらこら景勝。姫、三成が食べさせてくれるんだって。明日からは私が食べさせてあげるからね」


「え…、あ、あの、謙信さん、謙信さんのお城では私…三成さんと会えないの?」


意を決して拳を握りしめながら聞いてみると、意外な答えがのんびりとした声で返ってきた。


「そんなことはないよ。ただ、姫と三成は部屋を分けるから。一切立ち入り禁止。でも私の前では会ってもいいよ」


…条件付きだがそれでも三成と会うことができるとわかり、桃の顔が綻ぶと景勝の固い声が桃の背を伸ばした。


「そちらは石田三成殿とお見受けするが。母上とただならぬ関係に見える。間違ってはいまいか?」


「…桃を保護したのはこの石田三成だ。縁あり、桃の親御を捜している。そして桃を謙信公の家督争いに巻き込むつもりはない。貴公が上杉を継ぐのだろう?」


――“御館の乱”。

北条氏康の実子だった景虎と、姉の仙桃院の実子だった景勝が謙信死後、家督を巡って起きた大きな戦。


史実では景勝が家督を継ぎ、景虎は自害したと在る。


――自分がその家督争いに巻き込まれるわけにはいかない。

三成が言っていた意味がようやくわかり、大きく首を振った。


「私、お母さんたちを捜しに来ただけで、家督争いと、そういうの全然わかんないから!それより食べようよ、お腹空いちゃった!」


「景勝様、この直江兼続はあなた様を殿の後継ぎとして春日山城にお迎えいたしまする。景虎様は北条の子。上杉を背負わせるわけにはいきませぬ」


「こーらー、血生臭い話はしない!美味しくご飯を食べようよ」


――関わっては、いけない。
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