優しい手①~戦国:石田三成~【完】
景勝が迎えに来てくれて、

さっきはあんなに大きな声を出したというのにまた押し黙り、しかも桃の手に触れないように浴衣の袖を引っ張って皆の居る部屋へと戻る。


「えと、景勝さん、助かりました。ありがとう!」


「…」


何となく、見られているような気がするのだが何も話してくれない。

終いには嫌われてしまったのかと思い、桃も黙っていると…


「景勝、姫を泣かせたら許さないよ。立派な口があるのだからちゃんと話しなさい」


――本当の父親のような口ぶりで謙信が窘める声がして、息を吐く声がすると、ふわりと乳香の香りが鼻腔をくすぐった。


「…申し訳ない。話すのが苦手なので」


「あ、そうなの?じゃあ三成さんと同じだね!」


――急に引き合いに出され、幸村から春日山城の詳細を内情を聞き出そうと詰め寄っていた三成が顔を上げて桃を見ると、

膝を抱えて座っていた桃がまるで磁石がついているかのように膝をつきながら三成に近づく。


「ね、三成さんも全然喋んないけど喋ると面白いもんね」




……未だかつて三成を“面白い”と表現する人間は、秀吉くらいしか居なかった。

元々人付き合いは致命的に悪く、口を開けば痛烈な皮肉。


なので桃のように開けっ広げに、しかもさも当たり前のように言われるとさらに言葉に詰まってしまい、座りながら後ずさりする。


「俺は冗談など言わぬ!も、桃っ、あちこち見えているぞ!」


「え」


胸元からは胸の谷間が見え、浴衣の裾からはすらりとした太股が見え…


謙信も幸村も小十郎も兼続も、そして景勝も黙ってはいるが、皆桃の太股や胸の谷間に視線を集中させている。


「目が見えない姫もいいなあ。だけどすぐ見えるようにしてあげるからね。ああそうだ景勝、今宵は姫の隣に寝たら?親睦を深めるといいよ」


「父上…しかし…」


「うん景勝さん、お話しようよ!私が喋ってばっかかもしんないけど景勝さんが黙ってても私は平気だから。ね、そうしよ!」


天真爛漫な明るさで、とうとう景勝の固い表情を崩した。


――会えない時間が続いても想っている、と気持ちを交わし合った。


三成はそれを信じて、杯を呷った。
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