優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「殿、拙者が桃姫をお抱えいたします」


幸村がそう申し出たが、謙信は足早に自室に向かいながら首を振った。


「いや、私がこのまま連れて行くよ。薬師はもう来てるんだね?」


「はい、越後一の腕の者を連れて参りました。殿、尾張と奥州の者もご一緒でよろしいのですか?」


謙信と同年代の重臣安田長秀から苦言を呈されて、場に険悪なムードが流れる中謙信一人が笑いながら桃の頬に頬ずりをした。


「ひゃっ!」


「今は敵じゃないからいいんじゃないかな。眼帯のやんちゃ坊主は明日自国へ戻るんでしょ?」


長い廊下を歩きながら謙信の脇を固めて守りながら刀の柄から手を離さない家臣たちに政宗が鼻で笑った。


「桃姫と今宵ゆるりと酒を飲み、明日一度帰るがすぐに戻ってくる。貴公の好きなようにはさせぬぞ」


「好きなようにするにきまってるよ。みんなも刀に手なんかかけてないで殺気なんか纏わないように。姫が怖がるでしょ」


やんわりと笑んで腕の中の桃に愛しげな視線を向けると、部屋の前に居た女中らが襖を開けた。


――中は質素だが清楚でいて、綺麗に整えられ、謙信の性格が窺える。

調度類も質素だが物としては超一流のものばかりで、桃が着ている打掛も売れば目が飛び出るほどの高価な代物だ。


「着いたよ。下ろしてあげるから転ばないようにね」


「は、はい」


ようやく地に脚をつけることができてほっとすると、謙信にゆっくりと肩を押されてその場に座った。


「ではこちらの姫を診てあげて。三成と政宗、小十郎、兼続、幸村、景勝、景虎以外は退席」


「はっ」


襖が閉まり、緊張した初老の薬師が桃の両目を覆った布をゆっくりと外した。


「目に効果のあるものを多数ご用意いたしましたが、私に治せるかどうか…」


「越後の威信にかけて治してもらうよ。さあ」


するすると布が外されて声を上げそうになったのは…景勝と景虎だった。


「こ、これは可愛らしい…」


思わず景虎がそう呟き、皆の突き刺さるような視線を浴びて閉口する。


目は閉じたままだったが長い睫毛が美しく、目を開ければきっと大きくて絶対に可愛いだろうと2人に確信させて、また押し黙った。
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