優しい手①~戦国:石田三成~【完】
気が昂ってしまった桃を落ち着かせるために謙信が取った行動は…三成と桃を2人きりにさせることだった。


「数分だけだよ。私たちはその辺で時間を潰してくるから三成、頼んだからね」


「貴公に頼まれずともわかっている」


減らず口を叩き、また景勝と景虎の反感を買ったが、全く喋らなくなってしまった桃を気遣い、三成を残して皆が退席する。


「…三成さん、居る?」


「居る。そっちへ行ってもいいか?」


距離にして5m。

それが今の桃と三成との距離とも言えて、桃は声のした方へと手をつきながらにじり寄った。


「俺がそちらへ行くからそこに座っていてくれ」


「うん」


少し明るい声になったので少し安堵しながら桃の前に腰かけると、すぐに手が伸びてくる。


「手…握ってほしいの」


「怖いのか?目が見えるようになるのだ、喜ぶべきところだろう?」


付け髪をつけて化粧を施し、見違えるような姿になってしまった桃は三成をときめかせたが、

ひとつ間違えば自分の命をも狙われてしまう上杉の城でうかつなことはできず、桃が伸ばした手をそっと握りこんで自身の頬に導いた。


「会えぬ時も想っていると言ったことを覚えているか?」


窓から陽光が差し込む中、桃の顔に陰影ができて儚さが加わり、さらに膝と膝が付きそうなほどに桃から距離を縮めてきて打掛の胸元を引っ張った。


「当たり前でしょ、覚えてるよ。ねえ三成さん、これ…私、似合ってる?なんか着慣れなくって窮屈なの。セーラー服に着替えちゃ駄目かな?」


――三成から手を握られて落ち着きを取り戻した桃は、三成の頬に触れている手を動かして、滑らかな頬を撫でた。


「今日だけは大人しくしておけ。連中は驚くだろうな、女子が脚をむき出しにするなどこの時代ではないことだから」


「動きやすいのにね。三成さん…私、謙信さんに心が揺れないように頑張るから。だから信じてて」


――それはとても難しいことだと率直に思ったが、桃の肩を抱くと、そっとその唇にキスをした。


「信じている。早く親御を捜して、そして…そして、桃の全てを俺にくれ」


――三成に抱きしめてもらいながら、頷いた。
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