優しい手①~戦国:石田三成~【完】
しばらくすると謙信たちが戻って来て、三成に笑顔を向けている桃を見て安心すると景勝たちに手を振った。


「景勝と景虎、桃姫を少しお願いしてもいいかな?私たちは長秀たちに事情を話してくるから。頼んだよ」


「…はい」


景勝が何とかそう返事を返したが、何ぶん口下手なため、横の景虎の肩を肩で押す。


「お前が何か話せ。…俺は無理だ」


「な…っ、俺だって…」


「こらこら、仲良く。じゃあ桃姫、後でまた来るからね」


「はいっ」


元気よく返事をしたのは桃だけで、襖が閉まると部屋にはすぐに静寂が訪れた。


――当の桃は“なるようになる”と考えを切り替えて目の前で押し黙っている景勝と景虎に声をかけた。


「2人でも歳は幾つなんですか?私は17歳です。まだまだぴっちぴちだよ!」


「ぴ、ぴちぴち?」


「俺は20で、景勝は21です。…桃姫はその…父上のことをどう思っておられるのですか?」


北条家と上杉家に板挟みになっている景虎。

彼らについての逸話も数多く残っているため、桃はなるべく史実に触れないように景勝と景虎にそれぞれ手を伸ばした。


「ね、私の手を握ってください」


突然の申し出に2人が固まり、息をのむ。

だが桃は唇を尖らせて手を突き出したままで、景虎が仕方なくそっと桃の手を取ったが…景勝は桃の着ている打掛の袖を握った。

2人の性格が表れているようでくすっと笑うと、


「私は…謙信さんの奥さんにはなれません」


「!ですが父上はそのおつもりで…」


「でも、ここにお世話になっている間はみんなと仲良くなりたいし…謙信さんの幸せを祈ってます。…ほら、あの人かっこいいし素敵な女の人なんかすぐ見つかるよ!」


――2人はその桃の考えには賛同できなかった。


はじめて見たからだ。


謙信が女性に優しくして、あんなに愛しみを込めた瞳で女性を見つめている姿を――


「…俺たちもあなたと仲良くしたい。色々話をしましょう。景勝の代わりに俺が喋りますから」


「ははっ!景勝さんもちゃんと喋ろうよ!私、景勝さんの声好きだよ」


2人が顔を見合わせて、照れながら笑い合った。
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