優しい手①~戦国:石田三成~【完】
尾張の石田三成に、奥州の君主伊達政宗と、その右目の片倉小十郎。


あってはならない組み合わせが刀を伸ばせば謙信を斬れるほどの距離に座り、重臣たちを緊張させていた。


「…で、そういうことだから。桃姫には粗相のないように。私も度々城下町に降りることもあるだろうけれど、君たちはついて来なくていいからね」


「ですが殿…何故奥州の伊達政宗公と豊臣秀吉公の重臣石田三成殿がご一緒なのですか!?」


「伊達のは私を追って尾張まで来ちゃったんだって。三成は…」


「俺は尾張とは今回一切関係ない。桃の親御を共に捜すため、ここへ来たまでのこと。それに…」


そこで一旦言葉を切って謙信に向き直り、退屈そうに肘掛けに頬杖を突いている謙信に宣言した。


「桃は俺の妻になる。家督争いになど巻き込ませるつもりもなければ何を考えているかもわからぬ貴公には断じて渡さぬ」


「貴様、殿を侮辱するつもりか!」


「まあまあ」


のんびりと制止したのは当の謙信で、気色ばむ重臣たちを人差し指だけで鎮めた。


「私の想いは明瞭だと思うんだけど…。まあ私たちの言い分はともかく大切なのは桃姫の答え。人の考えなどいくらでも変わるものだよ。私は変わらないけどね」


そこで同じくらいこの集いに飽き飽きしていた政宗が小十郎と共に腰を上げながら重臣たちを挑発した。


「今回奥州は越後の敵ではない。だが俺も桃を欲している故、いつ戦になってもおかしくはない。奥州の動向から目を離さぬ方が良いぞ」


そう捨て台詞を吐いて退席した途端、その場は喧騒に包まれる。


「殿、越後を馬鹿にされたのですぞ、許せぬ!」


「こら、政宗はここまで私と桃姫を守ってきたんだよ。彼は戦友と言うべきだ。これからは関係を見直してもいいんじゃないかな」


そして謙信も腰を上げると、すぐ脇に控えていた兼続と幸村に静かに声をかけた。


「ちょっと籠もってくるから誰も近づけないように」


「はっ!畏まりまして!」


そしてどこかへ行ってしまったので、三成が兼続に問うた。


「謙信はどこへ?」


「毘沙門堂だ。仏に祈られるのだよ」


信仰を忘れない軍神。

その強さの、源。
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