優しい手①~戦国:石田三成~【完】
景勝も景虎も、ふんわりしていて可愛らしい桃に心を溶かされながら傷つけない言葉を探して苦心して会話を交わしているうちに、

謙信が何故桃に惹かれているかに気付き、心を開いた。


「桃姫は美しいだけではなく、強さも兼ね備えている。俺も…そう在りたい」


上杉の子となったはずなのに、実家の北条から密使が来て“謙信の弱点を探れ”という密書を受け取ったり…

北条から捨てられたはずなのに氏康や兄たちへの愛を捨てることができない景虎の目には、桃はまさしく毘沙門天の化身とされる謙信の隣に立つべき女子に見えた。


「あはっ、誉めすぎだよ!苦手なものも沢山あるし…」


「…苦手なものとは?」


今まで黙っていた景勝がようやく口を開いてその艶やかな低い声が聞こえた時、桃は一瞬嬉しそうに笑ったが…すぐに頬を赤らめて、小さな声で呟いた。


「………お化け」


「…物の怪が?」


「うん…まだ見たことないけど…。あっ!」


急に大きな声を上げたので思わず2人とも背筋を正してしまうと、桃が頭を抱えてうずくまってしまったので、景虎が慌ててぎこちなく桃の背中に触れた。


「桃姫?」


「私…お化けが怖いから一人で眠れないの!どうしようっ、いつもみたいに三成さんと寝ちゃ駄目なんだよね?…あ…名前…呼んじゃった…」


謙信がその場に居ないのでカウントしなくてもいいのに、

律儀な桃はもうすでに2回三成の名前を呼んでしまい、そんなことよりも毎夜三成と共に寝ていることを知った2人は口元を抑えて顔を真っ赤にした。


「そんな…、桃姫はすでに石田三成と…よ、夜伽を!?」


「え!?ち、違うよ三成さんはそんなことしないもん!あ…3回目…」


三成ループにハマってしまい、絶句する2人をよそに裾を踏まないようにゆっくりと立ち上がると、手探りで壁伝いに歩き始めた。


「桃姫?」


「謙信さんはどこ?私本当に一人だと眠れないから、一緒の部屋で寝せてもらうと助かるんだけど…」


…きっとそれだけでは済まないと思うが。


――景勝と景虎はそう思ったが、それを口にはしなかった。


「父上なら御堂でしょう。ご案内いたします」


景虎が細い手を取った。
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