優しい手①~戦国:石田三成~【完】
謙信に抱きしめられているうちになにか“ひとつの生き物”になったような気がして、桃の身体から力が抜けた。


「私とひとつになりたい?毘沙門天に見守られて…ひとつになろうか」


「ち、ちが、謙信さん、やめ、て…」


「やっとここに姫を連れてくることができた…」


――毘沙門天から啓示を受けた御堂。


“手放せぬ女子が違う世界からやって来る”


まさしくその通りになった。


…頬を首筋を、謙信の唇が伝ってゆく。


さらさらの黒髪がくすぐったくて、謙信の手が桃の両目を覆う布をするりと解いた。


「どうしたら君にこの想いが伝わるんだろう…。私の全てを君にあげたいんだ。覚えておいて」


「謙信さん、私…っ」


瞼にキスをされて、

本当に謙信と一心同体になったような感覚に襲われて、三成と交わした愛の約束を思い出したが、この大きな波に抗うことができない。


「ごめん、押し付けちゃったね。今はやめておこう、姫を大切にしたいから」


「謙信さん…」


――身体を離し、両手を両手で包み込まれて、またもやその続きを少し期待してしまっていた自身に動揺しつつ、


桃はこんな事態になってしまって願い出ることでもない、と一瞬思ったのだが…それでもお化けは怖い。


「あ、あのね、このお城で私…一人で寝なくちゃいけないのかなって思って…」


「三成は駄目だよ。…私でいいの?さすがに何もしない、というわけではないよ」


含み笑いをしながら謙信がまた桃の頬を撫でで、親指で何度も頬をなぞると耳たぶにキスをした。


「ん…っ」


「私でいいんだね?」


「お願い、なんにも、しないで…っ」


「それは無理だよ。だけどそうだね…三成との約束もあるし、夜伽は我慢しておく。姫、男はそんなに我慢強い生き物じゃないんだよ。それを覚えておいて」


謙信の香りが去っていき、ようやく自分自身をひとつの生き物として捉えることができた桃の鼓動は早鐘のように鳴り響き、胸を押さえる。


「兼続」


「はっ、ここに。桃姫、お部屋へご案内いたします。姫のお部屋は…殿の私室のお隣です」


「え…」


包囲網が狭まる。
< 275 / 671 >

この作品をシェア

pagetop