優しい手①~戦国:石田三成~【完】
兼続に恭しく手を取られて戻って来た桃を、一斉に男共が囲んだ。


「桃姫っ、初日から毘沙門堂への出入りを許されるとは…さすがです!」


すでに敬意を払って止まない景虎の称賛の声に、景勝のぼそりとしたつぶやきが重なった。


「羨ましい…」


「でも私今目が見えないし、中がどんななのかは全然わかんなかったよ」


そう言いつつきょろきょろと辺りを見回して手を伸ばす先には常に三成が居る。


「桃、布が解けかかっている」


固く結び直してもらうと、少し様子のおかしい桃に皆は気付いていたが、

それぞれが思いのままに桃の肩に触れたり髪に触れたりして、桃が気付かぬ程度に愛でて、兼続が一人べたべたと桃に触りまくる政宗の手をぴしゃりと扇子ではたいた。


「そんなに女子に触りたくば街へ降りると良いですぞ。残念ですなあ、今宵は盛大に宴を催す予定なので選りすぐりの美女を集める予定なのですが…」


「なに、それを早く言わぬか!だが桃姫には適わぬ、今宵は俺の隣に侍らせて…」


「戯言はやめていただきたい。桃姫は我らの母となるお方。奥州になどやらぬぞ」


景虎が牽制すると、安田長秀が大量の団子を抱えて部屋に入ってきた。


「兼続、桃姫所望の団子ということで城下町の団子屋が持ってきたぞ。大量すぎるが…食えるのか?」


「殿が我らにも振舞って下さるそうですぞ!」


「わ、お団子!?いい匂い!これは…餡子とみたらし!お抹茶の匂いもする!」


見事に言い当てて皆を笑わせると、三成がひと串取って桃に手渡した。


「食えぬほどあるぞ。帯が切れぬ程度に食え」


「ひ、ひどい!みんなも食べるんだよね?みんなで食べると美味しいもんね、いただきまーす!」


それぞれが串を手にしていたが、桃が美味しそうに頬張る姿を見て、一様にでれっとなる。


「殿が惚れるのも、わからぬでもないな…」


その長秀の呟きに兼続がちろりと睨むと、団子を口に突っ込みながら慌てて長秀が部屋を出て行く。


「桃姫、今宵は海の幸山の幸取り揃えて盛大に殿のご帰還、そして桃姫の歓迎の宴を開きまする。団子はほどほどに!」


皆が笑う。

桃も嬉しくて、笑顔になった。
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