優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「三成、そなたの部屋は俺の部屋の隣だ。異論あるまいな?」


皆で団子を食べた後、兼続が三成の肩を叩きながら笑いかけると、返事は三成からではなく、桃から起こった。


「兼続さんのお部屋って謙信さんのお部屋の近くだよね?だよねっ?」


桃が暗に言おうとしていることが皆に伝わり、兼続は快活に返事をすると、三成の背中を叩いた。


「桃姫がお呼びになればそれはもうすぐに駆けつけることのできる距離でございますぞ!」


――三成もまた、桃と謙信の部屋が続き部屋であることを明かされて、正直気が気ではなかったのだが…そこはぐっとこらえる。


この上杉に味方は兼続と幸村しか居ない。

それに、桃を信じている。


「直江様、湯殿の準備が整いました」


女中の声が聴こえて、兼続が桃の手を取る。


「今宵は酒宴でございます。桃姫におかれましてはそのままでも十分美しゅうございますが、一度湯あみをされた後、拙者がお迎えに上がります」


「え、お風呂?もしかして、おっきい!?」


急にテンションの上がった声を上げた桃に、幸村が笑みを誘われながらもう片方の桃の手を取った。


「それはもう。男が二十人は一気に入れるほどの大きさです。桃姫だけの貸切にございます」


「やった!やっとゆっくりお風呂に入れそう!」


「桃、俺も幸村と一緒に後で迎えに行く。不安だろうが、心配するな。俺がついている」


「うん!」


景勝と景虎の前でふてぶてしくそう言い放った三成と、嬉しそうに返事を返した桃――

まずます関係性がわからなくなって2人は口を噤んだが、共に旅をしてきて、共に長い時間を過ごしてきた幸村たちは何も突っ込まずに、風呂場まで桃の手を引くことにした。


「私一人で入るの?こんな目だし、大丈夫かな…」


「女中を1人お付けいたします。ごゆるりと上杉自慢の湯殿をご堪能くださいませ!」


「うん、じゃあまたね!」


――桃と別れると、兼続が焦ったように引き返して小走りに歩き出す。


「どうした?」


「政宗と小十郎が居らぬ!あ奴ら物見遊山のつもりだろうがあの口の悪さ、天下一品!斬られては大事!」


…気苦労の絶えない男だった。
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