優しい手①~戦国:石田三成~【完】
湯気が立ち込めるお風呂に脚を踏み入れ、大はしゃぎで床に溢れ続けるお湯を子供のように足でばしゃばしゃと叩いた。


「桃姫様、後でお背中をお流しいたします」


「はい、ありがとうございます!」


優しそうな女中の声に安心した桃は、手を引いてもらって一度軽く湯をかぶると音を立てて桧の良い香りのする湯船に飛び込んだ。


「ふわぁーーっ、すごい!気持ちいい、おっきい、楽しいーっ!」


「それはようございました!………あっ」


――湯あみを手伝ってくれる女中が突然驚いたような声を上げたので、心配になった桃が声を上げる。


「え、ど、どうしたんですか?」


「い、いえ何も…。桃姫様、お背中お流しいたします。ど、どうぞ」


どこかぎこちなく声をかけられたが、快活に返事をすると立ち上がり、引かれた手は…


大きかった気がした。


「?じゃあ、お願いします!」


「…」


さっきまで言葉を交わしていたのに急に寡黙になってしまって心配になったが、石鹸を泡立てる音がして肩に手が添えられる。


「…?」


女性の手にしては、ちょっと大きい気がするが…


そして、とても優しかった。


こんな手を、知っている気がした。


強すぎず弱すぎず背中全体を擦ってくれて、ご丁寧にも耳の後ろや脇の下も擦ってくれて、至れり尽くせりに大満足しながら、今度は女中に向かって前を向いた。


「前もお願いしちゃおっかな~!」


――女系家族故に女同士のスキンシップはディープなものがあり、女中と仲良くしたいがために冗談を言って笑わせようとしたのだが…


そのちょっとばかし大きく感じる手が腰を擦り、腹を擦り、胸を擦る。


「じょ、冗談だったのに…ありがとうございますっ!」


手つきはやけに優しく、ずっと肩に乗っている手はやっぱり大きく感じたが…

夢見心地で身体全体を洗われて、また手を導かれて湯船に浸かる。


「いいなあ、こんなお風呂があるお家にずっと住んでたいなあ…」


くすりと笑う気配がした。

ようやく女中から反応が返ってきたので桃も上機嫌になって、大声で歌を唄いながら湯船の中を泳いだりして楽しみ、浮かれていた。
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