優しい手①~戦国:石田三成~【完】
約束通り三成と兼続が迎えに来てくれて、湯上りでほっこりした桃に目を細めつつ、部屋へと案内する。


「我が城は正室、側室共に殿が娶らぬとの一点張りだったために女中も少なく女子に飢えた男共が多いので、桃姫は必ずや殿のお隣に居られますように」


途中途中躓きながらも三成をはらはらさせて、

肝心の桃は三成が近くに居てくれるのかどうかを聞き出そうと口を開きかけた時、兼続がそれを察知したかのように豪快に笑うと、桃の部屋の襖を開けた。


「三成も拙者の近く…殿のお傍に控えております故、ご安心を!」


「よかった!知らない人ばっかで緊張しちゃうし…三成さんには傍に…ってまた名前呼んじゃった…」


謙信以外の男の名を1回呼ぶ毎にキス…。

もうすでに、勝や景虎の名前を何度も読んでしまったため、50回を越えれば夜伽、という言葉が真に迫ってくる気がして唇をきゅっと閉じると、


続き部屋となる襖…謙信の部屋の襖が開いてひょっこり顔を出した。


「ああ、戻って来たんだね」


「殿!懸命にお捜しいたしましたのに巡り合えず無念でございましたぞ!どちらに?」


「台所に行って味見をして、あと…ちょっと遊んでた」


含み笑いをしてちょこんと座った桃の隣に腰かけると、髪を拭いてやる。


「姫、うちの風呂はどうだった?大きかったでしょ?」


「うん!女中さんが身体擦ってくれたんだけど、すっごく上手で気持ち良かったよ!」


――途端吹き出して桃から顔を背けて口を手で覆い、込み上げてくる爆笑をこらえている。


「…?」


「殿?」


「え?どしたの?」


三者三様の反応を見せてひとしきり笑いを堪えた後、謙信は目じりを指で拭いながら桃の頬を撫でた。


「そっか、それはよかったね。じゃあこれからは姫が湯あみをする時はその女中をつけてあげようね。兼続、そのように」


「はっ!御意にございます!」


「ほんとに上手だったの!背中だけじゃなくって身体全部洗ってくれて…ってあれ?なにこの空気…」


――桃が訝しむのも当然。


三成も兼続も駆けつけた幸村も、桃のその赤裸々な湯あみの感想に顔を真っ赤にさせていた。


…謙信以外は。
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