優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「今私に抱かれたら最後…三成の元には戻れないよ」


「ま、待って、私…っ」


「姫…君は私の城に自ら入って来たんだ。桃姫…本当は、わかっているんでしょ?」


謙信の腕がするりと枕替わりのように後頭部に滑り込んできて、そのしなやかで細い身体が覆い被さってきて…


耳元で甘く優しく、やわらかな声が響いた。


「毘沙門堂に姫が来た時、私とひとつになったような感覚になったでしょ?姫…私たちは、運命づけられていたんだよ。ずっとずっと、私は待っていたんだ。姫のことを…」


「…っ、謙信さ、ん……!」


――言い当てられて、三成が反論もできずに黙り込んでしまったことが…


お園と呼ばれた女が、身分違いを理由に三成から離れていたことが…そのせいで桃の魂が加速度的に謙信に傾いてゆく。


「どうしようか姫。ここは私の部屋で、これは私の布団。姫は私に覆い被さられていて、姫の心は痛みに泣き叫んでる。…悩むなあ、これは…義に反するよね」


身体を起こした謙信の腕を桃が掴んで引き留めた。


…三成とはもう、前のように接することはできない。


本当に本当に愛した女と再会してしまったのだから。


また前のように情熱的に愛して、傍に置くに決まっている。


「私…いいよ。謙信さん、私…」


――それは謙信が望む勝利ではなかった。


もうほとんど我が手で脱がされかかった着物から覗く胸を手で隠しながらも、唇は引き結ばれていて…

覚悟を決めているように見えるが、これは謙信が望んでいる完全勝利ではない。


…誰から見ても温和だとわかる目じりが下がった瞳が苦笑に揺れて、桃を抱き起すとぽんぽんと背中を摩ってやった。


「それは違うよ姫。私は姫のことが欲しいけれど、今の姫は私が欲しい姫じゃない。三成としっかり話をつけて別れると決断したら、私に言ってほしい。“抱いてください”ってね」


「…謙信さん…ごめんなさい、私、頭の中がぐちゃぐちゃで…。ぅ、っく…」


先程の光景を思い出したのか、また泣き出した桃の頭を胸に引き寄せて、小さく笑う。


「こんないい男を選ばないなんて、絶対損をするからね」


笑みが零れた。
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