優しい手①~戦国:石田三成~【完】
――よくよく我慢強い男だと自分でも実感していた。


三成を想って泣く桃にはどんな言葉をかけても慰めにはならない。

帯を締めてやって顔を覆って泣く桃の肩まで布団をかけてやると、まるで子供を寝かしつけるようにして隣に寝転び、布団の上から胸の辺りを優しく叩いてやった。


「泣き疲れたでしょ、寝てもいいよ。私も隣で寝るけど、今日は何もしないから。…うーん、やっぱり唇くらいはもらっておこうかな」


「え…っ」


「ふふ、冗談だよ。ねえ桃姫…今頃三成はどうしてるだろうね。それにお園が嫌なら追い出してあげようか?私にはそれができるよ」


「…ううん、いいの。もう、いいの…。三成さんにはちゃんと奥さんも子供もできて幸せに暮らした時があるんだから、その通りにならなくっちゃ…」


――今さら、と謙信は思ったが、

ここに残ると決めたわけではない桃がねじ曲がってしまっている今の状況を史実通りに戻そうとしていて奮闘するのはわかる。


だが、桃にはここに残ってほしい。

できれば自分の正室になって…子を生んでもらって、今までの生涯、最も手に入れたいと思う女子を、この手で抱きたい。


「史実通りね。そうなると私はやっぱり独身のまま死んでしまうのかあ、ちょっと残念だけどまあいいや、今この瞬間、私の隣には桃姫が居るから」


「…ごめんね謙信さん。私、今はなんにも考えられなくって…」


…閉じた桃の瞼をしばらく見つめていたが、毘沙門堂の時のように瞼にそっと口づけを落とす。


「とりあえずはもう寝よっか。私は役得だなあ、みーんな桃姫と一緒に居たがってるのに私が独り占め。満足満足」


――いつもと変わらない謙信の間延びした声に、桃の唇からふっと笑い声が漏れた。


「ふふ、謙信さんってほんと…優しいんだね」


「私はいつも優しいけれど、三成は時々優しさを見せる。女子はそういうのに弱いらしいよ。私もそうしてみようかなあ」


「ううん、謙信さん…ほんとに泣きたいくらい、優しいよ…」


また涙声になった桃を胸に抱きしめて、ぎゅっと力をこめた。


「早く寝ないと襲うよ?」


「ね、寝ます、すぐ寝ます!」


――謙信の細く固い背中に、腕を回した。
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