優しい手①~戦国:石田三成~【完】
その頃三成にあてがわれた部屋には何故、政宗と幸村が転がり込んでいた。

もちろん、隣部屋の兼続も一緒に。


…謙信が桃を追って消えてから三成は一言も言葉を発していない。

もう酒を楽しむどころではなくなり、人形と化した三成を引きずるようにして部屋に連れ込んだ。


「お園はなかなか気立ての良い女子だったな。妻にしようとして逃げられたのか?」


「…」


「逃げられて何年経つのだ?桃姫より愛していたのか?妻にしようとしたのだ、桃姫より愛していたに違いな…」


「愛姫に想いを告げられず、天下一のために桃を正室に娶ろうなどと画策する貴公に言われたくはない!」


「な、に…!」


――それまで寝転んでいた政宗が血相を変えて起き上がると、即座に幸村が間に身体を入れて2人を制した。


「どうか今は諍いはお止めください…!」


「とりあえず今は我が殿が桃姫をお慰め遊ばしているのは確かだ。夜伽をしていてもおかしくはない。三成よ、しくじったな…。友として残念に思うぞ」


――直江兼続は、上杉謙信の右腕。
参謀としてどの国の主からも求められたが、謙信だけを主と決めて今までやってきたこの男が、


内心は…桃と三成が相思相愛で、謙信は恋の戦に敗れてしまうものだと思っていた。


もしそうなったら…尻を叩いて、天下統一への情熱へと昇華させて、結果オーライ。

そう目論んでいたのに――


「確かに俺は…お園を愛しく思っていた。一時は回りが見えなくなるほど…」


「今も見えてはおらぬではないか。…愛のことは引き合いに出すなよ、今度こそぶった斬るぞ」


…三成から言われたことは図星だったが、桃を愛しく思っているのもまた事実。


…どちらかを選ぶことはできない。
両方欲しいのだ。


「三成殿…拙者は明日桃姫とお会いする時どのような顔をすればいいのかわかりませぬ。もう殿の腕の中に…」


「…そうはさせぬ。今すぐ桃の元へ行く!離せ兼続!」


荒々しく立ち上がって駆けて行こうとする三成の腕を咄嗟に掴んだ。


もう手遅れだと思っていた。


「殿から斬られるぞ。桃姫の心情を察するのだ!」


「…!」


叫びたかった。
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