優しい手①~戦国:石田三成~【完】
翌朝、目覚めの良い桃が目を覚ました時…すぐ目の前で謙信の寝息が聞こえた。


「……謙信さん…」


あまり睡眠も取らず食事も摂らず、身体を壊しはしないかと密かに心配していたのだが、我が城に戻って来て安心したのか起きる気配はない。


――ずっと腕枕をしてくれていたらしく、耳からはどくどくと脈打つ感触がして、すべすべの腕に思わず頬を摺り寄せると…


「…あれ…もう朝?」


耳元で聞こえた少し寝ぼけた声だけでも桃の身体を弛緩させるに十分で、しかも…

自分も謙信の背中に腕を回して眠っていたらしく、慌てて起き上がろうとしたのだが、ぎゅっと謙信が抱きしめてそれを阻んだ。


「せっかく姫から抱き着いてくれてるのに…もうちょっとこのままでいてよ」


「だって…恥ずかしいよ…」


「恥ずかしくないよ、誰も見てないんだから。ね、少しは落ち着いた?今日は三成に会える?」


三成の名を出されてまた少し唇が震えたが、あんなに傷つく思いをしても、こうして眠れたのは謙信のおかげだ。


最初出会った時から、ものすごく優しくしてくれた。

三成を忘れさせてくれるのなら…謙信しか居ない。


「うん…頑張る。でも…頑張れなかったら助けてくれる?」


「いいよ、私も早く姫が欲しいから決着をつけて欲しいんだ。早く目が見えるようになるといいね」


助け船を出してくれると言ってくれて、安心して少し笑った時――


「ん…っ」


唇にやわらかく押し付けられたもの…


「口づけくらいいいよね?それに見合う動きはちゃんとするから」


急に態勢を入れ替えられて覆い被さってきた謙信に、心臓が口から飛び出そうになる。


頬を両手で包み込まれて、深く深く唇を重ねてきた謙信のキスは激しく…みるみる抵抗する力を奪われた。


「ん、ん…、謙信、さ、ん…」


「近いうちに呼び捨てで呼んで。今日から私も姫のことを“桃”と呼ぶよ。いいね?」


「ん…、謙信、さ…」


太股を撫でる手はいっそう優しく…


三成の優しい手が頭に浮かんだが、それを忘れるために桃も謙信の愛に応える。


――想いが深まる一方の謙信は、三成と刀を交えてもいいと思っていた。
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