優しい手①~戦国:石田三成~【完】
朝、兼続が謙信の部屋を訪れた時、襖越しに命を受けた。
「政宗が発つ前に皆で食事を摂ろう。少ししたら皆を集めて」
「…はっ」
中では一体どんな光景が…
いつもなら“部屋に入って”と言う謙信が、今朝は言わなかった。
…見られたくないような、あられもない姿なのか――
――思い悩みながら自室へ戻ると、一睡もしなかった三成の鋭い切れ長の瞳には焦燥の光が浮かんでいた。
「桃は…!?」
「…お声は聴こえなかった。殿はお起きだったが…ううむ、これはもう夜伽を…」
ぎり、と歯ぎしりをして嫉妬の炎に身を焦がす三成の心情もわからないでもなかったが、状況は三成の方が分が悪い。
「…そなたにとっては越後は鬼門だったようだな。ここに来なければお園とかち合うこともなかっただろうに」
「お園はもう俺にとっては過去の女子。俺には…桃が必要だ」
「我が殿も同じことをおっしゃるに決まっている。とにかく誠意を尽くせ。俺にはそれしか言えぬ」
――板挟みに遭ってさぞ大変な思いをさせているだろうに、と三成も感じていたが、それよりも今桃と謙信がどんなことになっているのか…
「朝餉のご準備が整いましてございます」
「あいわかった。三成、行くぞ」
心臓が早鐘を打った。
お園とのことは過去だと自身では割り切っていても、桃はそうではない。
昨夜からきっと疑念が疑惑に心が揺れて…その隙間を謙信が入り込んでいったかもしれない。
どうすればいいのだろう?
どうすれば、わかってもらえる?
「おう三成、しけた顔をしているな。やはり桃姫は謙信と夜伽をしたのだろうな」
「愛姫とは夜伽をしたのか?…その血相ではまだのようだな、意外と小心者のようだ」
「貴様!」
売り言葉に買い言葉。
控えていた幸村がまた慌てて仲裁に入りながらも、皆が謙信の部屋に前に立った。
中からは何やら楽しそうな声が聴こえる。
「皆の衆、心してかかれ。桃姫のお身体に殿が刻み込んだ痕がないか、よくよく観察するのだ」
緊張で手に汗が滲む。
こんなことは、戦の真っただ中でしか経験したことはなかった。
「政宗が発つ前に皆で食事を摂ろう。少ししたら皆を集めて」
「…はっ」
中では一体どんな光景が…
いつもなら“部屋に入って”と言う謙信が、今朝は言わなかった。
…見られたくないような、あられもない姿なのか――
――思い悩みながら自室へ戻ると、一睡もしなかった三成の鋭い切れ長の瞳には焦燥の光が浮かんでいた。
「桃は…!?」
「…お声は聴こえなかった。殿はお起きだったが…ううむ、これはもう夜伽を…」
ぎり、と歯ぎしりをして嫉妬の炎に身を焦がす三成の心情もわからないでもなかったが、状況は三成の方が分が悪い。
「…そなたにとっては越後は鬼門だったようだな。ここに来なければお園とかち合うこともなかっただろうに」
「お園はもう俺にとっては過去の女子。俺には…桃が必要だ」
「我が殿も同じことをおっしゃるに決まっている。とにかく誠意を尽くせ。俺にはそれしか言えぬ」
――板挟みに遭ってさぞ大変な思いをさせているだろうに、と三成も感じていたが、それよりも今桃と謙信がどんなことになっているのか…
「朝餉のご準備が整いましてございます」
「あいわかった。三成、行くぞ」
心臓が早鐘を打った。
お園とのことは過去だと自身では割り切っていても、桃はそうではない。
昨夜からきっと疑念が疑惑に心が揺れて…その隙間を謙信が入り込んでいったかもしれない。
どうすればいいのだろう?
どうすれば、わかってもらえる?
「おう三成、しけた顔をしているな。やはり桃姫は謙信と夜伽をしたのだろうな」
「愛姫とは夜伽をしたのか?…その血相ではまだのようだな、意外と小心者のようだ」
「貴様!」
売り言葉に買い言葉。
控えていた幸村がまた慌てて仲裁に入りながらも、皆が謙信の部屋に前に立った。
中からは何やら楽しそうな声が聴こえる。
「皆の衆、心してかかれ。桃姫のお身体に殿が刻み込んだ痕がないか、よくよく観察するのだ」
緊張で手に汗が滲む。
こんなことは、戦の真っただ中でしか経験したことはなかった。