優しい手①~戦国:石田三成~【完】
一睡もせず、食事も摂らず桃のことばかり…


三成は完全に恋の病に陥っていた。


「では桃姫、しばし離れ離れになるがすぐに戻ってくる。その頃には俺の凛々しい顔が見えるようになっているといいな!」


「ありがとう!政宗さんも気を付けてね、行ってらっしゃい!」


桃から満面の笑みで送り出されて、上機嫌に小十郎と春日山城を後にする政宗たちを見送った後、やけに懐いてしまっている景虎が早速桃にまとわりついた。


「桃姫、俺に桃姫の国のお話をお聞かせください。とても興味があるのです」


「うんいいよ!でも…お堂に行った後でいい?私今は少し気分を落ちつけたくって…」


景虎と景勝の養子コンビが顔を見合わせた。

確かに昨晩の大騒動は…桃を傷つけただろう。
そして義父が…謙信が、桃を正室にする手始めの一歩として夜伽を…


「私はあそこに篭ると長いから、桃は待っていなくてもいいからね」


「大丈夫だよ、私あそこ好きだもん。お香の匂いとか蝋燭の匂いとか大好き!」


――いつもと変わりない様子に見えるが、あれから桃がこちらを見たりいつものように手を伸ばして求めてきたりしてくれない。


謙信に手を引かれて毘沙門堂の中へ消えた時、とうとう三成の身体が崩れ落ちた。


「三成!?」


「兼続…身が焦げてしまいそうだ…!頭が狂ってしまいそうなほどに、桃のことしか考えられぬ…!」


…身から出た錆。

あの時三成が快活に過去を明かしていれば、このようなことにはあるいはならなかったかもしれない。

あの時お園との愛を思い返して言葉に詰まったがために、このような事態になってしまったのだ。


「恋の病に罹ったか。未だ殿と桃姫が夜伽を交わしたかもわからぬが…距離が縮まったのは間違いない。どうしたことよのう…」


兼続にもどうすればいいのかわからずに隣に佇む幸村を見ると…幸村もまた、三成と同じような表情をしていた。


「そなたも恋の病か。いやはや、これは参った。今敵に攻め込まれてしまってはこの鉄壁の要塞城も落とされるやもしれぬ」


――毘沙門堂の中からは何も聴こえない。


景勝と景虎はその場から去ったが、他3人はその場から動くことができなかった。
< 295 / 671 >

この作品をシェア

pagetop