優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃と謙信が揃って毘沙門天の彫像の前に座禅を組んで座り、瞳を閉じていた。
――ここに居ると、本当に安らぐ。
あんなに泣き叫んだことが嘘のように感じた。
隣に座っている謙信からも乳香の香りがして、低くやわらかく、耳に心地よい声がお経を読んでいた。
ずっと聞いているとまた吸い込まれてしまいそうな感覚が襲ってきて、桃の身体が揺れ出す。
目の奥には、見えないはずなのに毘沙門天が仁王立ちしている彫像が見えていて、思わず声を上げてしまうと謙信の声が止んだ。
「大丈夫?」
「あ、ご、ごめんなさい…」
「身体が揺れてたけど眠たいの?兼続を呼んで…」
「ううん、いいの!なんか吸い込まれそうになっちゃうの。なんかね、目の奥に鑓を持った怖い男の人の像が見えて…」
「本当に?…桃、それはね、私が敬愛する毘沙門天の姿だよ。ああそうか、やっぱり君はそうなんだね…」
手を取られたかと思ったら…掌にキスをされた。
撫でるように唇が動き、桃が動揺して動けずにいるとひょいと身体を抱き起されて謙信の膝に座らされた。
「け、謙信さん?」
「印の組み方を教えてあげる。ちょっと複雑だけど、私が見ている世界を桃にも見てほしいんだ。きっと見れるよ。君なら、見れる」
――指が攣ってしまいそうなほどに難しい印を、謙信が桃の指を優しく折り曲げながら作った。
「私に合わせながら唱えてみて。どう?やってみる?」
「うん、私記憶力ないから覚えられるかな…」
「ふふ、大丈夫だよ。いい?のうまく さまんだ ぼだなん べいしら まんだや そわか…」
「え、えと…、のうまく、さまんだ…?」
「ふふ、拙くて可愛いね。もう一度言うよ…」
――繰り返し教えてくれて、徐々に桃も覚えて言えるようになり、
いつしか謙信に合わせて一緒に読むようになると、本当に謙信と毘沙門天とひとつになった気がした。
「謙信さん、なんか、怖い…!」
「大丈夫。今見えている光景は、私がいつも見ている光景だよ。いつか君と見てみたかったんだ…」
――一面一体が色とりどりの花畑。
そこは世俗から離れた、極楽浄土の世界だった。
――ここに居ると、本当に安らぐ。
あんなに泣き叫んだことが嘘のように感じた。
隣に座っている謙信からも乳香の香りがして、低くやわらかく、耳に心地よい声がお経を読んでいた。
ずっと聞いているとまた吸い込まれてしまいそうな感覚が襲ってきて、桃の身体が揺れ出す。
目の奥には、見えないはずなのに毘沙門天が仁王立ちしている彫像が見えていて、思わず声を上げてしまうと謙信の声が止んだ。
「大丈夫?」
「あ、ご、ごめんなさい…」
「身体が揺れてたけど眠たいの?兼続を呼んで…」
「ううん、いいの!なんか吸い込まれそうになっちゃうの。なんかね、目の奥に鑓を持った怖い男の人の像が見えて…」
「本当に?…桃、それはね、私が敬愛する毘沙門天の姿だよ。ああそうか、やっぱり君はそうなんだね…」
手を取られたかと思ったら…掌にキスをされた。
撫でるように唇が動き、桃が動揺して動けずにいるとひょいと身体を抱き起されて謙信の膝に座らされた。
「け、謙信さん?」
「印の組み方を教えてあげる。ちょっと複雑だけど、私が見ている世界を桃にも見てほしいんだ。きっと見れるよ。君なら、見れる」
――指が攣ってしまいそうなほどに難しい印を、謙信が桃の指を優しく折り曲げながら作った。
「私に合わせながら唱えてみて。どう?やってみる?」
「うん、私記憶力ないから覚えられるかな…」
「ふふ、大丈夫だよ。いい?のうまく さまんだ ぼだなん べいしら まんだや そわか…」
「え、えと…、のうまく、さまんだ…?」
「ふふ、拙くて可愛いね。もう一度言うよ…」
――繰り返し教えてくれて、徐々に桃も覚えて言えるようになり、
いつしか謙信に合わせて一緒に読むようになると、本当に謙信と毘沙門天とひとつになった気がした。
「謙信さん、なんか、怖い…!」
「大丈夫。今見えている光景は、私がいつも見ている光景だよ。いつか君と見てみたかったんだ…」
――一面一体が色とりどりの花畑。
そこは世俗から離れた、極楽浄土の世界だった。