優しい手①~戦国:石田三成~【完】
春風が吹いていた。

小川がせせらぎ…辺り一体に花弁が舞っていた。


髪が風になぶられて手で押さえた時、肩に誰かの手が乗った。


「謙信、さん……」


「これが私の理想の世界だよ。争いもなく、人々が平和で暮らせる世界」


まっすぐに見つめて優しく微笑むその瞳が桃の心を打つ。


「でも…私は…」


「君は生まれてくる時代を間違えたんだ。だから私は正室を娶らなかった。君をずっと待っていたんだよ」


やわらかく抱きしめられて、謙信の心臓の音が桃に安らぎを与えた。


「…そうなのかな…私…ここに居てもいいと思う?」


「それは君が選ばなければならない。こうして同じ景色を見れて嬉しいよ。また一緒に来ようね」


「うんっ」


――桃の身体がびくりと痙攣し、目を上げると謙信が抱きしめてくれていた。


「お帰り。今見た景色…覚えてる?」


「うん、謙信さんって…すごい。本当に毘沙門天の神様に愛されてるんだね…」


この時もうすでに数時間は経過しており、お堂の入り口から兼続の控えめな声が響いた。


「殿、軍議を開いてもよろしいでしょうか」


「うん、いいよ」


新たな世界を見せてくれた謙信の新たな魅力を知って、本当に自分だけを想ってくれている謙信に応えたい、という思いも芽生える。


…過去愛した女を断ち切れない三成に比べたら…謙信は本当に清廉潔白でいて、優しい。


2人でお堂から出ると、入り口には迷いに迷っている顔の幸村と三成、そして板挟み中の兼続が立っていた。


「なんなのみんなして。私が桃にいたずらしないか警戒してたの?残念、もうしちゃった後だからね」


「!」


「け、謙信さん!」


含み笑いをして大広間へと向かう謙信を兼続が慌てて追いかける。


「姫…」


「その声、幸村さん?この中すごいんだよ、見えないけど本当に落ち着くの。このお城すごいなあ」


「桃」


――三成が名を呼んだ。

少し震えたその声に、桃は背を向けて声のした幸村へと手を伸ばす。


「景虎さんと景勝さんの所へ連れてってくれる?」


「…はっ」


――誰もが、切ない。
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