優しい手①~戦国:石田三成~【完】
川中島の合戦――信玄と謙信の飽くなき戦い。

常に引き分けては休戦し、そして信玄が謙信の領土を侵してはまた戦う…


英雄同士の戦いだ。

――三成の中で、武将としての血が騒ぐ。


「謙信公」


大広間を出て行こうとした謙信に呼びかけた。


謙信がゆっくり振り返ると、三成の切れ長の瞳には決意が浮かんでいた。


それを読み取った謙信は微笑を浮かべて三成の肩を叩く。


「一緒に行く?ついて来てもいいよ」


「!三成さん!?」


まだ幸村に手を取られたままの桃が2人の会話に悲鳴のような声を上げながら手を伸ばす。


「桃…許してくれ。俺は…信玄と謙信公の戦いを直に見たい。だが越後の味方でも甲斐の味方でもない。行かねば後悔する。だから…ここに残っていてほしい」


「やだ、絶対やだ!私も…私も行く!」


――謙信と三成が目を見張り、2人で桃の両肩に触れるとやわらかい声でやわらかく諭した。


「女子が来るべき場所じゃないんだ。沢山血が流れて…沢山人が死ぬ。君には正直言って見てほしくないから、ここで私たちを待っていてほしいんだけど」


「そなたが居ては万全で戦えない。頼む、ここに居てくれ」


「桃姫…拙者からもお願いいたします。必ずや越後に勝利をもたらし、凱旋して参りますので、どうか…」


一番苦しそうにしていたのは幸村だった。


歴史をかじった程度の桃でもわかる。

幸村は信玄を尊敬し、信玄のために戦ってきた男。


越後と甲斐に挟まれて一番苦しいのは、幸村。


「幸村さん…でも私、心配で居ても立ってもいられないよ…!」


「ふふ、そんな桃も可愛いけれど、心配することはないよ。あの虎の首を狩って帰ってくるからね。私も彼を病で亡くしたりはしたくない」


ぽつりとそう本音を漏らし、謙信は声を張り上げた。


「兼続、三成に私の甲冑の用意を」


「はっ!」


――兼続の兜を見て、三成は身震いをした。


『愛』


越後への愛、

謙信への愛、

民たちへの愛――

だからこの国には猛者が多いのか。


「急ごう、桃の元へ早く戻るために」


謙信の瞳に炎が燈る。
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